競技と仕事を両立するための、労働条件の確認の仕方

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社会人アスリートにとって、競技が大切なことは言うまでもありません。しかし、生活を支える「仕事」も、同じくらい大切です。

みなさんが仕事を始めるとき、自分の「労働条件」を知っておくことで、安心して仕事に取り組むことができます。そして、安定した生活環境は競技へ好影響を与えます。

今回は、仕事に就く際に必ずチェックをしてもらいたい「労働条件通知書」について、お話しします。

 

■教えてくれる人

浦辺里香さん

浦辺 里香 (うらべ りか)

特定社会保険労務士

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。
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労働条件通知書とは

入社が決まると雇用契約書を交わしますが、この契約書とは別に、働くうえで必要な条件が書かれた「労働条件通知書」というものがあります。

具体的には「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労基法第15条)」と定められています(図1)。

労働条件の明示事項

図1:労働条件の明示事項

簡単にいうと、

「お給料はいくらか」「働く時間はどのくらいか」「どのような仕事をするのか」「退職や解雇について」

などについて、働く人へキチンと文字で示さなければならない、ということです。

私がこれまでに相談を受けた内容で、

「面接で言われた仕事の内容と、実際は違った」

「時給の金額が、聞いていた額と違う」

などの誤解や勘違いにより、仕事を辞めてしまったり、仕事が長続きしなかったりするケースがいくつもありました。これらのミスマッチを防ぐためにも、仕事が決まったら、まず「労働条件通知書」をもらい、内容を確認しましょう。

労働条件通知書は「書面」での交付が必須でしたが、平成31年4月からは「メールやSNS(LINEやメッセンジャーなど)」での交付も認められました。これにより、さらに確認や保管がしやすくなりました。

 

労働条件では、労働期間と労働時間に注意

では、実際に「労働条件」について確認してみましょう。図1は、厚生労働省がモデル書式として公開している、労働条件通知書の見本の1ページ目です。

難しい言葉が並んでいますが、まずは「契約期間」に定めがあるかないかを確認しましょう。また、期間の定めが「ある」場合、「契約の更新」があるかないかも、合わせて確認しましょう。通常、契約期間の定めは「なし」のパターンが多いですが、なかには「1年契約」などもあるため、注意が必要です。

次に「労働時間」について確認しましょう。何時から何時まで働くのか、休憩がどのくらいあるのか、また、残業があるのかどうかについても書かれています。アルバイトの場合は、必要に応じて「1週間の労働時間」についても確認しておくといいでしょう。

 

「固定残業代」で手取り額の認識がずれることも

続いて、2ページ目へ移ります(図2)。

ここで、もっとも重要な「賃金」についての記載が出てきます。時給、月給いずれもトータルの金額だけでなく、その内訳について説明する必要があります。

たとえば月給の場合、基本給のほかに各種手当(役職手当、資格手当など)が含まれる場合があります。これらの各種手当の金額を、基本給とは別に明記しなければなりません。また、時給、月給問わず交通費の支給がある場合は、別途記載が必要です。

特に月給の場合で、「トラブルの原因」となりがちな手当があります。それは「固定残業手当」です。手当の名称はさまざまですが、「固定で●●時間分の残業代を支払う」ことを指します。

例えば、この「固定残業手当」が、「30時間分の残業代」を支払う内容だとします。すると、みなさんが一カ月働いた際に、残業をしたとしても30時間を超えない限り、残業代は支払われません。

しかし、逆に考えると、「30時間未満の残業だったとしても、30時間分の残業代が毎月もらえる」ということです。なぜ、このような方法で「残業代を含めたお給料」にする必要があるのでしょう。それは、業種や職種によって、ぴったりの時間に仕事を終えることができない場合があるからです。

たとえば介護の仕事だと、利用者さんは高齢の方が多いので、スローペースで付き添う必要があります。そのため、定時で仕事を終えられないこともあります。そういった、日々起こりうる「少しの残業」に配慮して、最初からお給料に含めておくのです。

接客業は「お客さんありき」の仕事のため、なかなか、「時間が来たので上がります!」とは言えないことが多いでしょう。本来、定時で仕事を終えさせることが企業の責任です。しかし、人と接する仕事の場合、「機械的に割り切れない部分」があることも理解できます。

そういったシーンを想定して、残業があってもなくても「残業代を支給する」というお給料の内訳にすることがあるのです。そのため、固定残業代については、「残業時間」と「計算の根拠」を必ず確認しましょう。

このほかにも、労働条件通知書に書かれた内容は、働くうえで大切な内容です。しっかり目を通して、疑問があればその都度、企業へ確認しましょう。

 

労働条件の確認は細かく行なうのがマナー

日本には、「空気を読む」という文化(習慣)があります。空気を読んだ結果、あえて言葉で確認をせず、物事を進めるーー。この習慣は、自分と近い存在であればあるほど、よく行われます。

例えばチームの先輩後輩の関係、コーチと選手の関係など、言葉にしなくても伝わる「親密な関係」というものは存在します。そして、その信頼関係がパフォーマンスを向上させることもあります。

しかし、社会生活において、「なんとなく、わかるよね?」という感じで、「なんとなく」スタートしてしまった結果、トラブルにつながってしまった…という相談は絶えません。

このような残念な結末にならないためにも、仕事をスタートさせる際は、「お金」「労働時間」「仕事の内容」について、みなさんの目で見て、確かめる習慣をつけましょう。これは、お互いが気持ちよく仕事をするための「マナー」だと覚えておいてください。

 

■教えてくれる人

浦辺里香さん

浦辺 里香 (うらべ りか)

特定社会保険労務士

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。

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