スポーツと食事が私を強くしてくれた。100件のテレアポから夢を掴むまで(スポーツ栄養士 佐藤彩香さん)

 

【B&編集部より】

独立してすぐに生計を立てられる人はひとにぎりだといわれるスポーツ栄養士の世界。そんな中、管理栄養士の資格を取得して間もなく、エリートアスリート、ジュニアアスリートを含む10チーム以上のサポートを行い、選手からも恋愛相談をされるほど信頼が厚いスポーツ管理栄養士の佐藤彩香さん。
一見、最短距離で夢を叶えたようにみえる佐藤さんですが、最初に取り組んだのは地道な100件のテレアポだと言いいます。

今回は、佐藤さんが夢を叶えるまでのステップや現在取り組むキャリアの課題についてお聞きしました。
スポーツ管理栄養士を目指す方だけでなく、フリーランス専門家としての働き方に悩む方、やりたいことはあるけど挫けそうという方、必見のお話です。

 

プロフィール

佐藤 彩香(さとう あやか)

管理栄養士

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

佐藤 彩香 OFFICIAL BLOG「三度の食事は三回のチャンス」

 

 

スポーツ管理栄養士になるまでの道

勘違いからのスタート

幼い頃から小児性喘息持ちで体が弱かった私。10年以上打ち込んだ水泳と、家族の健康を一番に気づかう母の手料理によって、“しっかり食べて運動すること”こそが、体を強く、心を豊かにすることを身に染みて実感していました。

自然と「スポーツと栄養」について深く知りたいという想いが生まれ、迷わずスポーツ栄養学の道を志すように。
しかし、短大に入り意気揚々と「将来、スポーツ栄養士として仕事がしたい!」と教授に伝えたところ、返ってきた言葉は予想外。
「スポーツ栄養学は狭い分野。大学院を出て研究職に就いて学んだって、スポーツ栄養士だけで食べていける人は一握り。そんなに甘いものじゃない」と、一掃されてしまったのです。

栄養専門の大学でスポーツ栄養学を学び、栄養士の資格を取ればアスリートのいる現場で仕事ができると思っていたのですが、大きな勘違いでした。

 

スポーツ栄養士になるまで

とはいえ、はい、そうですかと諦めるつもりもなかった私は、以下のようなステップでスポーツ栄養士として活動するに至りました。

 

■短大1年生〜:テレアポ100件の末、3チームでインターン活動を開始

スポーツ栄養士として実際現場では何が必要なのかを学ぶため、また現場とのコネクションをつくるため、教授からのアドバイスをきっかけにインターン先を探しました。

私立の強豪校やジュニアの育成チーム、地域のクラブチームなど自分で行ける範囲内のチームを100件リストアップしテレアポ。
インターン先として3チームに受け入れてもらえることとなり、監督さんには2年間にわたってみっちり現場で必要な知識は何なのかを叩き込んでもらいました。

 

■短大卒業:監督にやりたいことを伝え続け、インターン先が契約チームに

インターン中から常々、将来は独立してスポーツ栄養士として仕事をしたいということを監督さんに伝えていました。

その結果、卒業後も栄養士としてサポートを続けてほしいと言っていただくことができ、個人契約を結ぶことができました。

 

■会社員1〜3年目:会社員と個人、二足の草鞋で独立準備

短大を卒業して取得したのは栄養士資格。さらに専門性の高い管理栄養士になるには、3年の実務経験が必要です。
そのため、3年間は副業ができる会社で会社員栄養士として働きながら、個人でスポーツ栄養士の仕事をすることにしました。

二足の草鞋で走り続けるうちに、契約しているチームの監督さんの紹介などで徐々に契約先が増え、社会人3年目には会社員としての収入よりも個人としての収入が上回るようになりました。

 

■会社員4年目:独立。仕事の幅を広げるためSNSを活用

3年の実務経験を終えて国家資格である管理栄養士資格に合格し、独立。
契約先は安定していたのでチームや選手の栄養サポートに集中することができました。

この頃から、自分が何者なのかをもっと多くの人に知ってもらうために積極的にSNSを更新するように。徐々にDMで個人の栄養サポートやセミナー講師などお仕事依頼も届くようになりました。

SNSは、ブログ、Twitter、Instagram、noteなど色々試してみましたが、私が唯一続けられたのはTwitter。SNSは継続が大事なので、今でも1日1回はスポーツ栄養に関することを発信するようにしています。

 

■独立3年目:アスリートの食意識の底上げ。ジュニアチームと契約し食育指導にあたる

今は、3チームでのシーズンを通した選手への個別栄養指導、スポーツトレーナー育成校での非常勤講師、その他、イベントでのセミナー講師やコラム執筆などを行っていますが、食意識への底上げにも力を入れたいと思い、10チームのジュニア向け食育指導にも携わっています。

食生活は、幼少期に食べていたものや習慣がベースになっているので、大人になってから急に変えるというのは難しい部分もあります。体づくりのためにも、苦手な食べ物や食事自体を苦に思わないような環境づくりをするためにも、ジュニア向けの食育というものを多くの人たちに発信していきたいと思い、力を入れています。

 

スポーツ栄養士として信頼してもらうために、大事にしていること

佐藤さんが、スポーツ栄養士として大事にしていること

・食の自己管理ができる選手を増やす
・他のスタッフと連携して選手をサポートする


 

食べちゃいけない食べ物は無い!食の自己管理ができる選手を増やす

体に悪いと思われがちなジャンクフードであっても、それが好きな選手にとっては食べることでストレスを軽減できたり、幸せな気分になったりと良い面もあります。
そのため、頭ごなしに食べちゃダメ!ということはせずに(さすがに大会前日などはやめてもらいます)、他にも選択肢をいくつか提案して、選手に判断してもらうことにしています。

選手は、栄養士が言ったから食べる・食べない、という判断をしていると永遠に栄養士に頼らなければなりません。
最終的には選手自身が食事を管理できるように、あれはダメ・これは良いということを伝えるのではなく、食についてしっかり自分の頭で考えてもらうことを大事にしています。

 

チームの一員として、監督・チームスタッフと連携する

栄養士として駆け出しの頃は、とにかく選手に良い情報を伝えたいという想いで指導に精一杯。そのため、チームのみなさんに栄養指導を本当に必要としてもらえているのか、自分の指導がパフォーマンスアップに繋がっているのか、など、チームの一員としての手応えを感じられずにいました。

そこで、チームの指導者にお願いしてトレーナーとのミーティングに参加したり、他のサポートスタッフたちとこまめに情報共有を行うことを実践。
栄養士プラスアルファの行動でチームに不可欠な存在になれるように、栄養指導の内容や選手のささいな変化など気づいたことを共有するようにしました。

結果として、情報を共有しておくことでスタッフみんなでバランスよく選手たちを支えることができ、以前より良いチーム作りのお手伝いができているなという手応えを感じています。

 

フリーランス栄養士の課題と解決に向けて

佐藤さんが現在向き合っているフリーランス栄養士の課題

・個人の実績(チームのパフォーマンスにどう影響したか)を可視化しにくい
・長期的なキャリア形成の方法(ライフスタイルの変化に影響される可能性が高い)


 

可視化しにくい実績。できる限りデータを残すように

個人でアスリートの栄養サポートする時に必ずぶつかる課題のひとつが、栄養指導によって選手のパフォーマンスが上がったという実績を残しづらいこと。
研究機関などであれば予算をかけてデータを取ることもありますが、フリーで栄養指導をしている者にとっては難しいものがあります。

そのため、血液検査をしているチームであればそのデータを残したり、または主観のアンケートをとって生の選手の声を食事の改善による可能性実績とするなどして、なるべく次につながる実績を残すようにしています。

 

ライフスタイルの変化に影響される仕事。仲間と協力し合って長期的なキャリア形成を

私自身も含め、フリー栄養士として仕事をしている女性にとって、将来結婚や出産などでライフスタイルに変化が生じた時、どんなに仕事を続けたくても今と同じようにすべてのチームの海外遠征や合宿に帯同するのは難しいため、キャリア形成は非常に悩ましい課題です。

そのため最近は合宿帯同の時にインターン生に一緒に来てもらったり、チームへの栄養指導にオンラインを取り入れたりしながら、いざ自分が動けなくなってもチームに迷惑をかけずに自分のキャリアを積み重ねていける方法を模索中です。

このテーマについては、現在クラブハウスを使って栄養士仲間とディスカッションしていますが、これからもできる限り続けてみて、良い案が出た時には同じように悩む方と共有していきたいと思っています。

(取材・文 辻岡奈保美)

RELATED

PICK UP

NEW