試合2週間前から調整。競歩五輪代表選手の食事・栄養管理を元モーグル伊藤みきが直撃!

上が競歩の岡田久美子選手。下が元モーグル選手の伊藤みきさん

日本女子競歩のエースとして活躍を続ける岡田久美子選手(ビックカメラ所属)。20キロ、5000メートルで日本新記録を樹立し、昨年12月には1万メートルの日本新を42分51秒82で更新しました。東京オリンピックに向けてますます注目が集まる岡田選手ですが、どのように体を作り、競技に臨んでいるのでしょうか?

元モーグル選手でトリノ、バンクーバーオリンピックに出場、ソチオリンピックでも日本代表に選出されたオリンピアンの伊藤みきさんが聞き手となり、食生活から東京オリンピックにかける思いをインタビュー。夏と冬という対極の環境でオリンピックに挑んだ2人の対談には、新たな発見が詰まっていました。

(聞き手:伊藤みき/文・臼井杏奈)

栄養バランスで気をつけていることは?長距離種目の注意点

日本選手権でゴールテープを切る岡田選手

伊藤さん
こんにちは、初めまして!伊藤みきです。今日は食事の面から体作りについて伺いたいのですが、普段の食事はどうしていらっしゃるんですか?
岡田選手
よろしくお願いします!普段は練習をしている国立スポーツ科学センター(JISS)で食べたり、一人暮らしなので自炊をしたりです。栄養バランスは公認スポーツ栄養士さんに見ていただいているのですが、野菜など自炊で摂りにくい食べ物はJISSの食事に頼り、家ではひじきなどの保存食を用意したり、乳製品やフルーツを揃えたりしています。
伊藤さん
練習でもたくさん歩かれるとのことなんですが、そうすると量よりも質、つまり栄養バランスを重視するんでしょうか?
岡田選手
長距離系の種目は汗などで鉄分が抜けて貧血になりやすいので、たんぱく質を摂るようにしています。特に赤身肉などを食べるようにしています。あと土台となるエネルギーが足りないといくら栄養バランスがしっかり取れていても不安定な状態になり、貧血になると聞いて、気にしています。最近は「MCTオイル」を試しているんです。良質なオイルで、エネルギー補給にもなっているな、と。その上、野菜などにかけたら、味が引き立って美味しい!油なので胸焼けするのかなと思ったんですが全くそんなことなくて。

サラダに「日清MCTオイル」をかける岡田選手

伊藤さん
私は現役時代、オイルタイプとゼリータイプのMCTを使っていて、オイルタイプのMCTオイルは朝ご飯のヨーグルトにかけて食べてました。その時は同じ練習量で、4ヶ月くらいで体脂肪2%下がって、体重が2キロくらい増えたんですよ!
岡田選手
えっ!すごい!脂質に関しては正直、知識もなくて。揚げ物は食べすぎないようにしますが「油を摂って体を作る」というのは考えたことがなかったので、今後に活かしていきたいです。
伊藤さん
せっかくいい練習しているんだから、いい油を取って欲しいなと思います!

減量は試合2週間前から。各周ごとに変える水分補給の中身とは?

伊藤さん
レース前はどのように食事の調整をしているんですか?
岡田選手
当日はお肉や野菜より、エネルギー摂取に集中します。前日も野菜など、繊維質のものは控えます。人によっては同じ食事を続けるんですが、私は緊張しいだからお腹にきてしまうんです…。また試合2週間前から練習量を減らすので、栄養バランスは保ちつつ、食事量を減らして体を絞っていきます。
伊藤さん
競歩の鈴木雄介選手とお話したときに、競歩独特のこととして「体重コントロールや食事を含めた生活が、競技成績に直結する」って言ってたんです。岡田選手もそうですか?
岡田選手
大きく関わっていると思います。雄介さんは試合に向けてすごく体を絞るんですが、オフシーズンはリフレッシュしたり、メリハリがあるんです。私も食事が試合のパフォーマンスに影響するので気を付けてはいますが、体作りで大事なのはパフォーマンスを上げることと、体調不良にならないことなので、数値はひとつの目安に。自分の体感を大事に調整しています。
伊藤さん
すごくわかります。私も数値がよくても成績には直結していないということがあったな。
岡田選手
365日絞ろうとは思っていなくて、試合に間に合えばいいと思って調整しています。今はスピード強化の練習をしていて、エネルギーを取るため白米を多めに食べます。300グラムくらい。
伊藤さん
私もお米を食べられるタイプだったので同じくらい食べていました!結構な量ですよね。練習時はどうしていますか?私は練習後に疲れを溜めないように、すぐに回復食を取ろうとバッグにいろいろ食べ物を入れていたんです。
岡田選手
練習終わりから食事まで1時間ほど空くんです、なので補食には気をつけてます。私は15キロ、20キロを歩き切った後にすぐエネルギー系のゼリーを用意して取ったり、それでも足りなければバナナなどを食べます。夏場なんかは食事までの間に食欲が湧かなくなってきてしまって…。そういう時は無理せず、ゆっくり体に合わせて食べるようにしてます。
伊藤さん
なるほど、暑さのイメージが湧かなかったです!環境が真逆なので、雪山にバナナ持ってったら凍っちゃう(笑)。それにスキーは一瞬で競技が終わるんですが、競歩は長時間ですよね。競技中は何を摂取していますか?
岡田選手
競歩20キロは1周1キロで20周歩くので、19回給水することができるのですが、BCAAを入れた上で1周ずつ中身を変えています。例えば残り5キロでエネルギーが欲しいと思ったらエネルギー系のドリンクに変えてもらったり。
伊藤さん
中身が違うなんて知らなかったです!同じドリンクだったら私だったら飽きて、口が受け付けなくなりそうだと思っていたんです。
岡田選手
場所やシーズンによって全く違うんです。昨年の世界選手権(ドーハ)は暑かったので、内臓疲労につながらない冷たいドリンクを4キロに1回受け取ったりしていました。

実はショックだったコースの変更。乗り越えた強さの理由は、自信の無さ

練習中の岡田選手

伊藤さん
新型コロナの自粛期間はどうやって練習していらしたんですか?
岡田選手
一回予定していた練習がすべて白紙になりました。1日20キロ以上歩くことが多かったのですが、免疫力を下げないように、練習量は通常の半分ほどに抑えました。外も人が多くて、時間を選んで歩いていました。
伊藤さん
そうなると、自粛が明けてきたら焦る気持ちとかもあったんじゃないですか?競歩の場合はコースの変更(東京から札幌)もあったし、気持ちの面も落ち着かないのかなって。
岡田選手
札幌開催が決まった時は、正直すごく残念でした。というのも、去年ドーハで暑さ対策など工夫をして、初めて6位に入ることができたんです!けれど涼しい札幌になったので、レースもスピード勝負になる。もう一段、二段レベルを上げなければと、すぐにスピード強化を始めました。決定は昨年10月頃でしたが、12月には強化の一環として出場した大会で1万メートルの日本新を出せて。やっと札幌を受け入れられました(笑)。
伊藤さん
よかった〜(笑)。実は私、札幌に住んでいて、先日コースを歩いてきたんです。全部の信号に引っかかっちゃったんで20分くらいかかっちゃったんですけれど…。一緒の場所歩けて嬉しかったです!
岡田選手
えー、そうなんですね!私も8月頭に歩きました!本番のレース開始時刻の16時半に合わせてスタートして、イメージをしながら。第一印象がすごく良くって、楽しみに思っています。

競歩コースとなる札幌の街(伊藤さん撮影)

伊藤さん
岡田選手って国内ではずっと敵なしの状態じゃないですか。ここまで勝ち続けられる要因って、なんだと思いますか?
岡田選手
よく周りには「精神的な軸がブレないね、勝ち続けたいという気持ちを持ち続けているね」って言われます。みんな悩んだりすると思うんですが、自分自身を信じて継続することができるのは、自分の強みなのかも。29歳になりましたが、まだまだ若いものには負けられんぞって思っています(笑)。もちろん次世代の選手にも育っては欲しいので、声をかけながら、まずは自分が頑張りたいですね。
伊藤さん
そこまで勝ち続けたいと思える原動力って何なんでしょう?
岡田選手
私、不器用なので競歩くらいしかできなくて…自己表現の場所は競歩なのかなって思っているんですよね。なので勝ち続けることで輝ける場所を求めているのかも。
伊藤さん
素敵ですね!岡田選手は今、東京オリンピックに向けて、どんな意気込みを持っていますか?
岡田選手
1万メートルで日本新は出せましたが、20キロではメダル獲得に向けて、もう一段力を上げなきゃいけない。1年延期はプラスになったのかな、って思っています。延期が決定した時は悔しかったですけれど、色んなことができるし、MCTオイルにも出合えたし(笑)。東京オリンピックがなかったら途中で挫折していんじゃないかと思うくらい、そのひとつの希望を追いかけてきたので。ひとつの集大成という気持ちで臨んでいきたいです。
伊藤さん
選手をやっていた身からすると、好調な中で自国開催のオリンピックって、すごく羨ましい!これも縁だと思うので、最後まで引き寄せて頑張って欲しいです。応援しています!
岡田選手
ありがとうございます!頑張ります!

⬛︎プロフィール  岡田久美子(おかだ くみこ)

20キロ競歩、ビックカメラ所属。埼玉県出身。5000、1万メートルと20キロ競歩で日本記録を保持する日本女子競歩界のエース。熊谷女子高時代に競歩を始め、立教大学に進学すると日本インカレで1万メートル競歩4連覇。リオデジャネイロオリンピックでは16位。今年2月の日本選手権では6連覇を達成するとともに東京オリンピック代表の座を掴んだ。

伊藤みき(いとう みき)

元モーグル選手、滋賀県出身。14歳でナショナルチーム入りし、高校時代のトリノオリンピックで初の五輪出場を果たし、ルーキーオブザイヤーを受賞。その後もバンクーバーオリンピック出場、2013年ワールドカップ優勝、世界選手権2種目で銀メダルを獲得。ソチオリンピックでは日本代表となるも右膝前十字靭帯損傷のため棄権。2019年5月に現役を引退し、現在は札幌を拠点に様々な活動を行う。

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