正社員(フルタイム)という働き方、アスリートにとってのメリット・デメリット

「正社員」という響きに、みなさんは何を感じますか?

正社員だと優遇されている、いいことがある、というイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。

細かな条件は企業によって違いますが、アスリートにとって「フルタイム(正社員)」で働いた場合、どのようなメリット・デメリットがあるのか、確認してみましょう。

 

■教えてくれる人

浦辺里香さん

浦辺 里香 (うらべ りか)

特定社会保険労務士

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。
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フルタイムのメリット

フルタイムで働く場合のメリットというと、やはり「収入が安定している」ということでしょう。時給でも、月給でも、「1日8時間・週40時間」働くので、一か月に得られる収入は、ある程度の額が見込めます。

また、保険関係もバッチリです。週20時間以上で雇用保険、週30時間以上で社会保険(健康保険・厚生年金保険)へ加入します(企業規模によって違いがあります)。特に、社会保険の加入は、将来の年金額に反映されるため、重要なポイントになります。

しかし、中には「社会保険料が高いから、入りたくない!」という声も聞かれます。たしかに、手取りベースでみると、社会保険料の分、お給料が減ってしまうため、残念な気分になるでしょう。

ところが、社会保険料の半分を会社が払ってくれていることを考えると、実はとてもラッキーな制度なんです。さらに、将来もらえる年金が、「国民年金+厚生年金」とダブル年金になるため、ぜひとも加入したい制度です。

働いてお金を稼げるうちに、将来のシニアライフの準備をすることは、アスリートのみならず誰もが必要なことです。つまり、社会保険に加入できることは、フルタイムで働く人の大きなメリットと言えます。

 

傷病手当金

将来の年金だけでなく、たとえば「練習でケガをして仕事ができない」「病気でしばらく仕事を休まなければならない」などというとき、全国健康保険協会の「傷病手当金」の制度があります。

仕事中のケガや病気は「労災」が使えますが、それ以外のケガや病気で仕事を長期間休む場合に「傷病手当金」が支給されます。これにより、お給料が出なくても生活に困らないよう、みなさんは守られているのです。

これらも含めて、生活の安定を図るためには、フルタイムで働くことや社会保険に加入することが、どれほど大切なことかがわかります。

 

有給休暇

もう一つ、フルタイムで働くうえで重要な要素として、「有給休暇」の日数が多いことが挙げられます。厳密には、「週4日以上+週30時間以上」のアルバイトやパートタイム労働者も、フルタイムで働く場合と同じ日数の有給休暇がもらえます。

そして、6年6か月以上働くと、年間20日もの有給休暇がもらえるのです。

有給休暇をもらうには、2つの条件があります。

①入社から6か月働く

②8割以上出勤する

これらをクリアすると、初めて「有給休暇」が発生します(会社によっては、入社してすぐに有給休暇を取得できる場合もあります。入社時に確認しましょう)。

なお、有給休暇を取るとき、その理由は問いません。試合のため、練習会や講習会に参加するため、友達と遊ぶためなど、どのような目的で有給休暇を取っても問題ありません(むしろ、会社へ理由を言う必要はありません)。

この有給休暇の日数が、フルタイムで働く場合と、それ以外とで、やや差があります(上図参照)。会社を休んでもお給料がもらえるのが有給休暇です。その有給休暇が、たくさんもらえるのならば、たくさんほしいですよね。この点からも、フルタイム労働はメリットがあります。

 

フルタイムのデメリット

逆に、フルタイムで働く場合のデメリットはどのような部分でしょう。

収入や保険関係の部分において、デメリットはありません。しかし、アスリートにとって、仕事と同じくらい大切にしたい、「練習」の時間が減ってしまうことが挙げられます。

練習場所が、自宅や勤務先から離れている場合など、フルタイムで仕事をしていると練習時間の確保が難しくなります。また、チームスポーツの場合、「チームメイトが練習をするのに、自分は仕事で参加できない」など、デュアルキャリア*の難しさが浮かび上がります。

*アスリートが、現役時代から「セカンドキャリア」の準備を始めること。競技と仕事を同時期に行なうため、「ダブルキャリア」とも言う。

さらに、1日8時間・週40時間働くため、からだを休める時間を確保できないまま、週末の練習や試合を行なうことになります。そのため、肉体的な疲労がたまるだけでなく、精神的な負担も増える可能性があります。

ジムにいる女性の写真

しかし、何はともあれ、生活の安定なくして競技の成長はありえません。

「きちんと収入を得ること」

「社会保障制度への加入」

これらをクリアすることは、生活のベースを築くための最低条件と言えるでしょう。

 

優先順位を再確認

今回は、フルタイムで働く場合のメリット・デメリットをお伝えしてきました。

収入確保やキャリア形成という意味では、フルタイム(正社員)はとても魅力的です。しかし、現役アスリートにとって、「今」にすべてを注ぎたいという気持ちはとてもよくわかります(私にもそういう時期がありました)。

つまり、その「バランスを保つこと」が重要です。練習に時間をかければ生活が不安定になる。かといって、仕事を頑張ると練習時間が確保できないーー。このジレンマは、社会人アスリートが常に抱える悩みでしょう。

練習内容に優先順位があるように、みなさんの人生にも優先順位があります。そのバランスが崩れてしまうと、上手くいくはずのことが失敗に終わってしまう、という悲しい結果を招いてしまいます。

今の自分に必要な順番はどれか、5年後の自分に必要となる順番はどれか。正しい答えを出すことは難しいですが、現実から目を背けず、「考える」ということを実行してみましょう。

 

■プロフィール

浦辺里香さん

浦辺 里香 (うらべ りか)

特定社会保険労務士

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。本業と並行し、SSS(サムライ・スポーツ・ソリューションズ合同会社)の代表を務め、アスリートのセカンドキャリアをサポート。クレー射撃(スキート)元日本代表、ブラジリアン柔術紫帯(2020ヨーロピアン選手権青帯フェザー級ダブルゴールド)。

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