「これだから、サッカーやめらんない」なでしこ最年長・熊谷紗希のW杯への思い

写真提供:株式会社ベンヌ

今夏、オーストラリアとニュージーランドで開催される女子W杯への出場するなでしこジャパン。2011年ドイツ大会では、決勝の舞台で強豪アメリカをPK戦の末に下しW杯初優勝を手にしました。その試合で最後のPKを蹴り、なでしこジャパンを優勝へと導いたのが、サッカー女子日本代表・キャプテンの熊谷紗希(くまがい・さき)選手です。

熊谷選手は2011年のドイツW杯後、ドイツ・フランクフルトで2シーズンをプレーしたのち、フランスの強豪オリンピック・リヨンへ移籍。在籍中には国内リーグ7連覇、UEFA女子チャンピオンズリーグ5連覇という偉業達成に大きく貢献しました。2021年には8年ぶりにドイツに復帰、バイエルンで2シーズンをプレー。来季は新天地のイタリア・ローマでさらなる飛躍を狙います。

今回は、世界を舞台に目覚ましい活躍を見せる熊谷選手に、前回大会のフランスW杯での苦い経験や欧州でプレーし続ける理由、今大会に懸ける思いを伺いました。

(聞き手・文:泊志穂)

キャプテンとしての強い思い。年齢関係なくぶつかり合うこと

ー2019年のフランスW杯は惜しくもベスト16で大会を終えました。今あらためて、当時の心境を教えていただきたいです。

私の中でフランスW杯は、ただただ悔しさの残る大会になりました。ドイツW杯、カナダW杯に続き、決勝への進出を個人、チームともに目標として掲げていたものの結果はベスト16。当時フランス1部のリヨンでプレーしていた私は、決勝の地に選ばれたリヨンのピッチに日本代表として立ちたいと願い、強い意志を持って大会に臨みましたが、その夢は叶いませんでした。メダルを手にできなかった悔しさは、翌年の東京五輪にぶつけようと、当時は意識的に気持ちを切り替えたことを覚えています。

ー前回大会で苦い思いをされた一方、2011年のドイツW杯では優勝を経験されています。当時の優勝メンバーとして若手選手たちに伝えたいことはありますか?

2011年のドイツ大会で優勝したチームと現在のチームは、メンバーをはじめ目指すサッカーから何から全てが異なるので、絶対に伝えたいものがあるかというと、そこまでのものはないですね。優勝から12年が経過して、世界のサッカーも変わりました。その中で私が伝えられることがあるなら、過去ではなく現在の話でしょうか。
ポルトガルで強化試合をしたとき、宮間あやさんが日本から激励に来てくれたんです。過去の話については宮間さんのようなレジェンドからの言葉の方が、女子サッカーの歴史を創ってきてくれた先輩方がいるということが実感しやすく、今いる選手たちに思いが伝わりやすいと思っていました。

私が伝えられることは、プレー中に起こったことについてその場で話をする、自分の思いやこれまで培ってきた経験を踏まえた考えを伝えて意思疎通することです。チームにプラスとなる情報は積極的に共有しています。今後も若手選手との密なコミュニケーションは大切にしていきたいですね。

ー長年なでしこジャパンを支えているキャプテンとして、プレッシャーを感じることはありますか?

プレッシャーを感じることはありませんが、チームを率いる立場として責任を負っている感覚はあります。

前回大会は今まで日本代表を支えてくれた経験豊富な選手たちが抜けて、若手選手たちで構成されたチームにリフレッシュされました。当時は、新生なでしこジャパンのキャプテンとして、どのように舵取りをすべきか、かなり悩みました。苦しかったし、上手くいかないことも多かったです。

でもW杯フランス大会中にうまくいかないことに対して選手同士で正面からぶつかり合えたときに、チームがひとつになれたんです。その経験を経て今は本大会前から、良い意味で全員がプレーについての意見が言い合えるように親善試合などを通してしっかりと話し合い、細かくコミュニケーションをとっています。

ーキャプテンの熊谷選手が会話しやすい雰囲気を作ると、若手選手も話しやすくなりますよね。

キャプテンになった時から風通しの良いチームにしたいと強く思っていて、メンバー間で何でも話し合えるような雰囲気を作ろうと意識してきました。ピッチに立てば年齢は関係ありません。思ったことをその場で言い合えるのが一番ですからね。

写真提供:株式会社ベンヌ

海外でも通用することを、自分の背中で示し続けたい。

ーリヨンからミュンヘンへ移籍して難しさはありましたか。

リヨンからミュンヘンに移籍してからは戦術も求められるプレーも変わり、チーム内で生き残るためにもがきながら自分のポジションを確立してきました。日本人だからこそできるプレーを示せたと思っているので、W杯で体現したいです。

ー日本人だからこそできるプレーとは?

日本人選手の一番の強みは、相手を見てプレーを選択するなど状況に応じた判断ができること。ポジショニングやタイミングの上手さは欧州で活躍する選手たちにも引けを取らないと感じています。

ただ、日本人選手が大多数を占める国内でなら可能なことも、欧州チームのような世界中の選手が集まる環境に日本人が1人だけという状況だと、自分の良さを出すことは簡単ではありません。

欧州でプレーを続けてきた中で改めて感じるのは、互いの文化やバックグラウンドが違う中で、いかに自分を表現するか。自分ができることを周りの選手たちに理解してもらうことが、海外でプレーする上では欠かせません。

ー欧州にプレーの場を移し12シーズンが経過しました。熊谷選手が欧州でプレーし続ける理由を教えてください。

一番は、自分の成長のためです。もちろん世界中のどこでプレーをしても成長はできますが、私個人としては、欧州でプレーをすることが最も成長できると考えています。国内と違って欧州ではありえないことが起こりますし、その状況への対応も求められます。そういった環境下でプレーを続けた結果、サッカー選手としてレベルアップできたと感じます。欧州の女子サッカーのレベルは年々上がっているので、自分を必要としてくれるチームがある限り海外でプレーを続けたいですね。それが結果的に子どもたちに勇気を与えることに繋がっていると思います。

日本人が海外でプレーし続けられるということを、私自身の背中で見せていきたいと思っています。日本人でもチャンピオンズリーグを優勝するチームでプレーできて、ここまで戦えるんだと。日本にいる若い選手や世界にも示したかったんです。女子スポーツはまだまだマイナースポーツが多いと感じています。女性がスポーツ界で活躍してお金を稼ぐことができるということも示していけたら嬉しいです。

今でこそ女子もサッカーでお金を稼げるようになりましたが、まだまだ人気や知名度は男子サッカーに及びません。男の子にとってプロサッカー選手が憧れの職業であるように、女の子にとっても同じくプロサッカー選手という職業が、目指したいものになってほしいですね。実際、今いただいているお給料は夢のある金額だと思います。プロの世界はシビアな面もありますが、実力次第では大きな対価を得ることも可能です。プロとして本気でサッカーをしたい方は、目指して損はないと思います。プロを目指す未来の後輩たちのためにも、自らサッカーで稼ぐ選択肢を示していきたいです。

写真提供:株式会社ベンヌ

最後かもしれない。全てを出し尽くす大会に

ーなでしこジャパンやバイエルンで、最年長として活躍し続けられている秘訣はなんでしょうか?

やっぱりサッカーが好きだからでしょうか。

定期的に壁は立ちはだかりますが、その壁を乗り越えたときに「これだからサッカーやめらんないな」と思う瞬間があるんです。昨年のカタールW杯のときに吉田麻也選手も似たような話をされていて、「すごい、わかるわ〜」と思わず共感してしまいました。

フィジカル面ではケガをしないことも大きいです。痛めることはありますが、幸い大きな怪我をしたことはありません。大好きなサッカーを続けられていることに日々感謝ですね。

ーずっと最前線で走り続けていて、尊敬します。

同世代の選手が引退を発表する中、私自身も今シーズンがラストかもしれないと思いながら毎日過ごしています。

でも終わりが見えているからこそ、今を大切にできているのかもしれません。いつ引退をしても悔いのない幕引きができるとは思っていませんが、そこは目標として目指したいです。過去から今に至るまでサッカーを楽しめている感覚があるので、引き続き大好きなサッカーをプレーしながら生きていきたいですね。私にとってサッカー選手は本当に天職だなと改めて感じます。

ー最後に、今大会に懸ける思いを教えてください。

全てを懸けていて、勝つためにできる全てのことをやり尽くします。チームが勝つために自分にできることをやるしかないですね。

私にとっては最後のW杯になる可能性もあるので、今大会は全力でプレーをして全力で楽しみます。そして終わったときには、全部を出しきった自分に会いたいです!

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