「好きだから、やめる選択肢はなかった」ボートレース 土屋南の産後復帰

写真:本人提供

2020年9月に産休入りし、1年2ヶ月後にレース復帰を果たしたボートレーサーの土屋南(つちや・みなみ)さん。中学時代はバスケットボール部、高校時代にはハンドボールでインターハイ3連続出場を経験したのち、家族のすすめがありボートレース選手養成学校へ。今では、これまで取り組んだスポーツの中でも最も好きだそうで、インタビュー中も競技への愛が溢れていました。

「早くボートに乗りたい」一心で取り組んだ復帰についてや、ボートレースの魅力をお伺いしました。

 

ハンドボールから、ボートレースへ。

ー土屋さんは、ハンドボールで3年連続のインターハイ出場も経験されています。そこからボートレースに転向したきっかけや経緯を教えてください。

もともと父がジェットスキー(水上バイク)の選手で似た競技を経験していたこともあり、昔から「ボートレーサーになって欲しい」と言われていたんです。保育園の「卒園生の夢」でも書かされたのを覚えています(笑)。高校も体育科がある父の母校をすすめられて進学しました。ここで体力をつけて成績を残せばボートレーサーの試験に受かりやすい、という思いがあったようです。

ー入学してハンドボールを選んだのはなぜだったのですか?

部活の中で一番強かったからです。中学校の頃はバスケ部に所属していましたが、どこか自分にあっていないなと……やるなら新たな競技で上を目指したいと思いました。

その思い通り3年間部活に打ち込みました。卒業後は「もうスポーツを続けたくない」と思う一方で、他にやりたいことも出てこない状態。父と顧問の先生にすすめられて、ボートレーサーの専門学校を受験しました。実は一度目の受験で落ち、悔しくて、本気で取り組んで二度目で受かったんです(笑)。

ー運命的な部分もあったのですね。実際に初めてボートに乗ってみた時はいかがでしたか?

こんなに楽しいんだ、と。非日常感のある水上を、スピード感持って走る魅力を体感しました。

写真:本人提供

ーハンドボールの経験が、ボートレースに活きていると感じている部分はありますか?

技術的にいうと、動体視力です。ボートレースはスピードがある中で素早く判断をしなければいけません。

あとは、メンタルです。かなり厳しい環境でやっていたのと、キャプテンを務めていたので、自分と向き合いコントロールする力は部活時代に培ったと思っています。

ボートレースは1週間かけて毎日レースがあり、最終日に優勝できるように挑みます。1日目に順位がよくないと、凹んでしまうんです。それでも6日間諦めずに気持ちを切り替えて臨む心構えは、高校時代の3年間があってこそかなと。

あとは、上手くなるために数をこなす習慣も活きています。もともと天才肌ではないので、「これだけやったのだから大丈夫」と練習量で自信をつけるようにしています。

ーチーム競技と個人競技で、違いを感じることはありましたか?

最初はすごく感じました。「うわ、一人でやるのか」と(笑)。でも養成所では皆で取り組みますし、特に岡山は選手の繋がりも強いです。そういった意味ではチーム競技のような側面もありますね。共同生活の際に、チーム競技で培ったリーダシップやコミュニケーション能力は活きました。

 

「早くボートに乗りたい」一心で。産後1年2ヶ月でのレース復帰

ー2021年11月、1年2ヶ月ぶりにレース復帰されました。出産後も競技を続けることはずっと決められていたのでしょうか?

競技をやめることは全く考えていなかったです。妊娠がわかった時から、「いつ復帰しよう」と考えていました。ちょうどボートレーサーとして成長を実感していた時期でもあったので、出産を経てまた頑張りたい気持ちが強かったです。

もちろん、身体が戻るのか、出産前と同じように取り組めるのか不安はありました。でも先輩のママさんレーサーがいろいろと教えてくださったので、順調に進むことができました。

ー産後復帰される選手も多いのですね。

女性は60歳手前くらいまで現役で続ける方も多くいます。体力勝負の競技ではないからこそできる部分もあるのかなと。

ー出産後、どのくらいでトレーニングを再開されたのですか?

出産後3ヶ月でボートに乗ってみました。身体の感覚的には「もういけるかな」と思ったのですが、さすがに早すぎたみたいで(笑)。骨盤がかなり痛くて諦めました。そこからは家でトレーニングを重ねつつ、1ヶ月ごとにボートに乗りに行って、感覚を確かめる日々。ただただ「早くボートに乗りたい」と思う気持ちで取り組んでいました。

ー確かに、3ヶ月は早いですね。トレーニングはどのようなことをされていたのですか?

ランニングと、体幹トレーニングや腹筋です。体重管理も気にかけていました。

ーご自身の身体と向き合う中で、難しい部分もあったのではないでしょうか。

想像以上に筋肉が落ちていて、大変でした。ボートも思っている以上に乗れなくなっていてがっかりしたのを覚えています。1年たった今でも、筋力や感覚が完全には戻っていません。地道にトレーニングを続けているところです。

ーレース復帰後、改めて感じたことはありましたか?

純粋に、ボートが好きだなと思いました。すぐに以前の状態に戻るとは思っていなかったので、新たな気持ちでいちから頑張ろう、挑戦しようという気持ちが大きかったです。(復帰戦を見て)「元気をもらったよ」と言ってくださるファンの方も多く、嬉しかったです。

写真:本人提供

一度体感して欲しい、大迫力とスピード感

ーお話を伺っていると、ボートレースがとてもお好きなんだなと。改めて、ボートレースの魅力を教えてください。

画面ではなく、ぜひボートレース場に足を運んで見ていただきたいですね。モーターの音やスピード感、ボートとボートが競い合う迫力を感じていただけるかと思います。この迫力がかっこいいんです。

選手として乗っていると、さらに迫力がありますし、ファンの方の応援も感じられます。私自身“神職”だと思うほど、大好きな競技です。

ーおもしろそうですね……一度、観に行ってみます。今の目標もお伺いしたいです。

最近は、事故が多いんです。まずは無事故で完走する姿をファンの方々に見せたいと思っています。あとは来年の賞金女王決定戦(クイーンズクライマックス)に出場することですね。

調子が悪いと余裕がなくなり、緊張して上手くいかなくなります。ワクワクして楽しんでいる時の方が上手くいくので、メンタル面も上手くコントロールしていきたいなと。

ー最後に、産後復帰を考えているアスリートへ向けて、メッセージをお願いします。

スポーツを続ける醍醐味として、勝負のワクワクや、ファンの方からいただく応援があると思っています。アスリートにとっての心の支えであり、生きがいです。こういった感情を味わえていることに感謝して、続けられるまで続けて欲しいと思いますね。私も選手として、母として、皆さんと一緒にこれからさらに成長していけるよう頑張ります!

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