寝ないとどうなる?睡眠改善インストラクター寺脇沙緒里が就寝&起床のポイントをご紹介!

2021年版の経済協力開発機構(OECD)の調査結果では33カ国中、日本人女性の睡眠時間が最も短いというデータが報告されました。

多忙な日々の中、仕事や家事、育児に追われる多くの女性が自らの睡眠を犠牲にしている姿は、想像に難くありません。しかしそれにより「寝てもなぜか疲労感が残る」「目覚まし時計で起きるのが難しい」など睡眠に関する問題を抱える女性も増えています。

そこで今回は、NTT PARAVITA株式会社で睡眠改善インストラクターを務める寺脇沙緒里(てらわき・さおり)さんに、睡眠の質を改善するための具体的な方法を教えていただきました。

睡眠の大切さとは?そもそも私たちに睡眠が必要な理由

ーまずはじめに、私たち人間が十分な睡眠を必要とする理由について教えていただけますか?

答えは至ってシンプルで、脳と身体を休息させるために睡眠が必要です。

つまり睡眠不足というのは、全身が休まっておらず精神的な余裕が失われている状態なので、普段であれば気にならない些細なことにイライラしてしまうなど、日常生活に悪影響を及ぼしかねません。裏を返せば、十分な睡眠によって精神的な安定感が得られ、不安感も軽減します。

また、睡眠不足は集中力の低下を引き起こします。ほとんどの方に経験があるかと思いますが、眠気で仕事の効率が落ちたり、アスリートの方は思うように練習ができなかったり。両者ともにパフォーマンスに大きく影響するため、日常生活を送る上で適切な睡眠は欠かせません。

ーたしかに寝不足は仕事の効率に影響しますね。では具体的にはどの程度の睡眠時間が必要なのでしょうか?

18〜64歳の成人は7〜9時間の睡眠が推奨されていますが、7時間と9時間では2時間も幅がありますし、適切な睡眠時間は一人ひとり異なります。

自分自身の体調を見ながら、寝つきが良く、朝スッキリと起きられ、そして午前中に眠気を感じないような最適な睡眠時間を見つけましょう。逆に寝付きが良すぎるのも問題なので、バランスの良い睡眠が大切です。

ーすぐに眠れることは良いことだと思っていましたが、違うのでしょうか?

実は、あまり良いことではないんです。気絶するような形で眠りに落ちることは、すなわち睡眠が足りていない証拠なので……。

これを聞いて「自分も寝付きが早いかも!?」と思われた方もいるかと思いますが、あまり心配しなくても大丈夫です。実際に数秒で眠りに落ちているケースは少なく、多くの方が大体5分程度の時間をかけて、しっかりと眠りに入っています。

睡眠のプロが教える、ぐっすり眠れてスッキリ起きる方法

ー今度は、理想的な起床方法について教えていただけますか?

目覚まし時計を使用すること自体に問題はありませんが、スヌーズ機能の利用は控えてください。脳に持続的なストレスを与えますし、決まった時間に起きにくくなります。便利な機能ですが、できれば使わずに起きて欲しいです。

もし特定の時間に起きたい場合は、スヌーズ機能よりも自身の意識に訴える方が効果的です。具体的には「6時に起きる、6時に起きる」と寝る前に起床時間を数回唱えましょう。これを行うことで「6時起床」が脳にインプットされるんです。

「それで本当に起きられるの?」って思いますよね(笑)。では、普段より早く起きたい日のことを少し思い浮かべてみてください。そのような日は前の晩から起床時間を意識しますよね。すると翌朝、起きるべき時間にパッと目が覚めたという経験はありませんか?これと同じ原理が適用されるので、朝が苦手な方はぜひ試してみてください。

また、起きたらまず最初にカーテンを開けるのもおすすめです。人間は、朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、脳が目覚めます。アラーム音で起きるよりも、光を浴びて起きる方が身体にとって自然な目覚め方であり、効果的です。

ーでは逆に、睡眠前に気をつけるべきことはありますか?

寝る直前の食事はあまり良くないですね。寝る前に糖質中心のものを食べてしまうと夜間低血糖を起こすリスクがあり、遅い時間の食事は体内時計を遅らせることにもつながります。そのため、寝つきがわるくなってしまったり、夜中に目が覚めて朝すっきり起きられなくなってしまうことも。

さらに、朝にお腹が空いていない状態で朝を迎えてしまえば、朝ご飯を食べられないということにもなってしまいます。カフェインを含むコーヒーや紅茶、エナジードリンク、高カカオチョコレートなども寝つきを悪くしたり、途中で目が覚める原因になるので、こちらは夕食以降は控えることがおすすめです。

ー光が睡眠に影響を与えるように、食事と睡眠にも深い関係があるのでしょうか?

自分が口にするもの全てが睡眠に影響を与えると言っても過言ではないくらい、食事と睡眠には密接な関係があります。

これは私の体験談ですが、夜遅くまで飲み過ぎてしまった次の日、いつも以上に食欲が増していたことがありました。実はこれ、睡眠不足によるホルモンバランスの乱れが原因だったんです。

今お話した内容は睡眠が食事に影響を与えるケースですが、逆に、食事も睡眠に影響を与えます。特にトリプトファンというアミノ酸は、メラトニンという「睡眠ホルモン」を生み出すために必要な栄養素なので睡眠に直結するんです。朝食は軽く済ませてしまう方も多いと思いますが、食事は身体作りだけでなく睡眠にも大きく作用するため、朝からしっかりとタンパク質の豊富な食事をとって欲しいです。

理想的な朝ご飯は米、野菜や海藻入りの味噌汁、焼き魚や納豆やたまご焼き、和え物などの副菜が良いですね。朝に時間がとれない方は、手軽な組み合わせとして、ご飯と納豆や卵、パンと卵やツナトーストなどたんぱく質と糖質の組み合わせからでも試してみてください。

後は何を食べるかと同じく重要なのが、いつ食べるかです。先ほど説明した通り、寝る直前の食事は睡眠を妨げます。仕事の都合などで、どうしても食事が夜遅くになってしまう方は、炭水化物は夕方に食べて、夜は野菜類だけを食べるなど、食べ方を工夫してみてください。

寝る前であれば、食事だけでなくスマホを見るのもあまり良くないんです。朝日を浴びると目が覚めるという話にも通じますが、人間は光を感じると身体が活動状態になります。ですから寝る直前までブルーライトを浴びることは、睡眠という観点から言えば、控えていただきたいですね。

ー寝る直前にスマホをチェックされる方も多いと思いますが、良くないんですね……。光が睡眠を妨げるということは、真っ暗な環境で眠るのが正しいのでしょうか?

その通りです。理想は真っ暗ですが、それが難しい場合でも薄暗い環境であれば問題ありません。豆電球程度の明るさであれば大丈夫です。

アスリートの方は遠征先のホテルでチームメイトと相部屋になる機会もあるかと思いますが、なるべく普段の睡眠環境が近い人同士が同室になるといいですね。少し明るい部屋で眠る人と真っ暗な部屋で眠る人が同じ部屋になると、どちらかが寝不足になってしまい競技のパフォーマンスに影響が出る可能性も……。

睡眠環境を考慮した部屋割りはあくまで理想なので、難しい場合はアイマスクや耳栓などを使って対策するのも一つの方法です。

アスリートにとって睡眠はトレーニングの一部

ー では改めて、アスリートが十分な睡眠をとらないことで生じるリスクについて教えていただけますか?

睡眠不足のときに頭がぼんやりしてしまうのは全員に共通しますが、アスリートの場合は結果的に、怪我のリスクが上がり、普段はしないようなミスをするなど、競技をする上で様々な悪影響があります。

過去に私もバドミントンをしていた頃、睡眠不足でイライラが募りシャトルが全然ネットを越えなかったことがありました。個人競技であれば自己責任の範囲内ですが、チームプレーが求められる団体競技では、一人の寝不足がチーム全体のパフォーマンスに影響を与える可能性もあります。

また、パフォーマンスの向上が見込めないことで、競技によっては記録が伸び悩むといった問題も生じます。

ーほぼ全ての競技のアスリートに影響がありそうですね……。

アスリートの方々には是非、睡眠もトレーニングの一部だと捉えていただきたいですね。実際にトップアスリートのウサイン・ボルト選手や大谷翔平選手は1日10時間以上を睡眠に充てています。一般人と比べて身体に大きな負荷がかかるアスリートは、エネルギー消費量や筋肉疲労も大きいので、その分多くの睡眠が必要です。もし可能であれば練習後に昼寝の時間を確保してみてください。練習した動作や感覚が記憶として定着し、トレーニング効果の向上につながります。

睡眠を向上させる「ねむりのパーソナルトレーニング」

ーNTT PARAVITA株式会社が提供する「ねむりのパーソナルトレーニング」では、具体的にどのようなプログラムが行われているのでしょうか?

まず最初に、パーソナルトレーニングを受ける方には「アテネ不眠尺度」を使った睡眠のセルフチェックをお願いしています。続いて、弊社が提供する睡眠センサーをご自宅のマットレスや布団に設置してもらい睡眠状態を測定していただきます。

後日、睡眠に関するオンラインセミナーを受講いただいた上で、測定データやセルフチェックの結果をもとに睡眠改善インストラクターが改善ポイントを提案。このマンツーマン形式でのアドバイスはトレーニング期間中に2回行います。

最後に、アドバイスの内容をまとめたレポートに各インストラクターの手書きメモを添えてお渡しし、計3ヶ月間のプログラムが終了です。

ーちなみに、どのようなアドバイスをされているのでしょうか?

これは一例ですが、夜眠れないことで日中の眠気に悩まされていた方には、昼寝の仕方をアドバイスしました。睡眠データをチェックしたところ、しばしば夕方まで昼寝をされていたんです。夕方まで寝てしまうと夜の寝付きが悪くなるので、昼寝の時間を短くするか昼寝をしても15時までには起きるようにと提案しました。

ー最後に、女性アスリートの皆さんに睡眠という観点からメッセージをお願いします。

女性アスリートは月経によって睡眠のリズムが崩れやすく、PMS(月経前症候群)によりメンタルが不安定になることもあります。さらに、日本人女性は世界でも特に睡眠時間が短い傾向にあり、家事や育児の負担の多さから自らの睡眠を後回しにしがちです。しかし、最高のパフォーマンスを発揮するためには適切な睡眠が不可欠ですし、睡眠時間を増やすことが、自身の競技力向上に直結します。

SNS全盛の時代ですから、目に入る様々な投稿がプレッシャーとなって、自分も完璧に家事や育児をこなさなければと感じることもあるかと思います。しかし、全てを完璧にこなす必要はありません。自分に合った方法を模索し、自身の体調管理に専念することが大切です。現役を長く続け、怪我を防ぐためにも、まずは5分でも良いので睡眠時間を伸ばすことから始めてみてください。

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