バスケ引退から再出発。家族の支えを力に、宮崎安奈がボートレースで目指す頂点

元Wリーグでバスケットボール選手として活躍し、2024年よりボートレーサーとして新たな挑戦をはじめた宮崎安奈選手。姉は女子バスケ日本代表の宮崎早織選手、兄はプロサッカー選手の宮崎泰右選手という、まさにスポーツ一家で育ちました。

そんな彼女が、なぜ慣れ親しんだコートを離れてボートレースの世界を選んだのか。競技転向の経緯から現在の心境まで、多岐にわたるお話を伺いました。

表舞台からは引退しよう。一度はバスケを辞めた宮崎選手が何故ボートレーサーに?

ー元々、Wリーグで2年間バスケットボールをプレーされています。引退を決断した理由を教えていただけますか?

2年間高いレベルでプレーできたことは自分の中でとても貴重な経験でした。一方で今までこれといった挫折を経験してこなかったので、155cmでバスケ選手としては小柄な自分が身長の高い選手と戦うことや、そもそも試合に出場すらできないことに限界を感じました。

バスケットボール自体は好きだけれど、思い通りにならないもどかしさが募り、引退を考え始めました。姉とも同じ舞台で戦うことができたし、2年間トップレベルの選手たちとも戦えて、もう悔いはなかった。けれど長年続けてきたバスケを辞めるのは本当に大きな決断だったので、当時はすごく悩みましたね。

ーバスケを辞めようかなと考え始めたのは、いつ頃だったのでしょうか?

高校時代も特別実力があったわけではなかったので、プロ1年目は勉強する期間だと思って、トップリーグがどういう世界なのかを理解しようと活動に取り組んでいました。しかし2年目に入ってもやはりうまくいかないことばかり。試合に出られなかったり、出ても自分の思い通りのプレーができなかったり。そういった経験が積み重なって、引退という決断に至ったのかなと思います。

ーそこから、どうしてボートレースを始めることになったのですか?

バスケを引退した当初、今後は一般的な会社員のように表に出ない生活をしたいと思っていました。ただ、今までずっとスポーツをやってきたので、家族はまだ私にスポーツを続けてほしそうでしたね。そんな中、私の身長が低いこともあってか、父が「ボートレーサーという職業もあるよ」と教えてくれたんです。

最初は、父がそこまで本気だとは思っていませんでした。しかし次第に、養成所や試験の話が出るようになって…。結果的には、それがきっかけでボートレースの道に進んだのですが、スポーツの道に戻ることは考えていなかったので、父とぶつかることもありました。

ーなぜスポーツ選手の道に再挑戦しようと思ったのでしょうか?

やはり一番は姉の存在が大きかったですね。当時は、兄もサッカー選手としてプレーしていたので、頑張る2人の姿を見て、自分も新しい道に挑戦してみようかなと思いました。

「人と比べない」姉のアドバイスを胸に。日々の技術向上に向き合う

ーバスケとは競技性も全く違いますが、ボートレーサーを目指す前に、実際のレースを見たことは?

映像で見たことはあるものの、実際にレース場へ足を運んだことはありませんでした。競技についての詳しい知識も、ほとんどなかったです。

さらに、養成所の入所倍率は20倍以上。とても狭き門なので、試験を受けても簡単に受かるものじゃないと思っていたんです。だから、受けるだけならと思い、挑戦しました。

ーボートレースを始めて、いかがでしたか?

やるからには頑張りたいと思っていたのですが、すべてが初めてのことばかりで。頑張りたいけどできないギャップに葛藤していました。でも今では、自分の頑張りが結果や報酬という形できちんと返ってくる点に、面白さを感じています。あと、人との関わりがすごく多く、沢山の方々と出会えたことも良かったなと思っています。

ーバスケの経験が活きている部分はありますか?

バスケ時代に培われた負けず嫌いな性格や、困難な状況でも逃げ出さない忍耐力は活きているかもしれません。これまでも同期が結果を出す度に、自分だけが取り残されていると感じたことは何度もありました。でもバスケをやっていたからこそ、心が折れても逃げ出さずにここまで頑張ってこれたのかなと思いますね。

ーバスケットボールは団体競技、ボートレースは個人競技。緊張感にも違いがありそうです。

そうですね。私は元々緊張しやすい性格で、バスケのときも緊張はしていました。でも、仲間がいてくれるので、自分がダメでも誰かが助けてくれる安心感はありましたね。

競技中、ボートレースは完全に一人です。何かあっても自分で立て直すしかないので、常に緊張感が隣り合わせ。今は「自分との戦い」という感じで、自分と向き合うことが増えました。終わったレースを見返し、自分に今何が足りていないのかを探して反省する。その繰り返しの日々です。

ー緊張を乗り越えるために、意識していることはありますか?

マイナスなことは考えないように意識しています。たとえばスタートの場面では、「フライングしたら」ではなく、「良いスタートを切ろう」と考えます。また、メンタル面で落ち込んだときも、普段から兄や姉とコミュニケーションを取っているので、そこで良い影響を受けているのだと思いますね。

ー姉・早織さんにもインタビューさせていただきましたが、アスリートの中でも自分との向き合い方がとても上手い方だなと感じました。

そうなんです。妹から見ても、自分の芯や考えをきちんと持っているなと感じます。

ーお姉さんからの言葉やアドバイスで、特に印象に残っているものはありますか?

「人と比べない方がいいよ」という言葉です。負けず嫌いだからこそ、周りと比べて「遅れてる」とよく悩んじゃうんですけど、そんなときに「人と比べずに、いまできることを着実にやっていけばいい」と言葉を掛けてくれるので、すごく気持ちが楽になり救われますね。

男女混合で戦う、ボートレース。魅力をより多くの人に伝えたい

ーレースに向けては、普段どのように準備されているのですか?

試合を開催している期間は基本的にボートに乗って練習をしています。ただ、実際にボートに乗って練習している時間は少なくて、数十分程度。乗らない時間帯はプロペラを叩いて調整などをやっています。

支部によって練習環境は異なるのですが、私の所属する埼玉支部はいつでも練習できる恵まれた環境を整備してくださっているので、とても感謝しています。

ー今、ご自身で特に課題だと感じていることは何ですか?

課題は本当にたくさんあるのですが、一番はレース「握っていく」こと。そのために素早い旋回がまだ足りないなと。結局は、何度もボートに乗って自分の身体に染み込ませるしかないんです。経験を積んで、逃げられるようなレースがしたいなと思っています。

ー逆に、ご自身の中で強みに感じている部分はありますか?

正直、あまり意識したことがないんです。良いレースができても自分を過信したくなくて。周りからは良くなったと言われても、目標がいつも少し上にあるから、「もっとやれるはず」と思ってしまうんです。

ー自分に厳しいからこそですね。

レースを振り返ってみても、ここが良かったから順位が上がったのだとは、まだ自分でははっきり分からないんです。だからこそ、もう少し自信を持って戦えるようになれば、結果にもつながってくるんじゃないかなって思います。

ーボートレースを続けるモチベーションは何ですか?

ファンの皆さんの応援をすごく身近に感じられることです。それが日々の励みになっています。レース場でもヘルメット越しにタオルなどの応援グッズを持ってきてくださる姿が見えているんです。バスケと違って交流会のように直接関わる機会はないにも関わらず、応援の熱量をすごく間近で感じるのは、不思議だけれど本当にありがたいですよね。その方たちのために頑張りたいと思うことも増えました。

あとはやはり良い結果が出せた時の達成感や嬉しさ。ボートレーサーになったからには上を目指したいなと思う気持ちは常にあるので、頑張っていきます。

ー改めて、宮崎選手にとってのボートレースの魅力を教えてください。

一番の魅力は「男女が同じ土俵で戦える」ことですね。多くのスポーツでは男女別で競技が行われますが、ボートレースでは性別に関係なく、同じレースで競い合います。だからこそ、性別の枠を越えて勝利できたとき、女性アスリートとして大きな喜びを感じます。個人競技ではありますが、男性選手たちと同じレースに出場し、その中で勝てれば、自分の強みや自信にもつながります。

ー私も今回初めて女子ボートレースを見て、より多くの人に魅力を伝えていきたいと感じました。宮崎さんはどこに注目をしてほしいですか?

ボートレースという競技を知らない人も多いと思うので、まずは少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。迫力のある水面上の戦いを生で見ていただけたら、ボートレースの良さや楽しさが伝わるんじゃないかなと思うので、ぜひ一度レース場に来てほしいですね。

ー最後にボートレーサーとしての目標を教えてください。

まずは、A級レーサーとして大きな舞台で戦うことが目標です。将来的には、私の先輩であり師匠の佐藤翼さんのように、多くの人から尊敬されるようなレーサーに成長して、いつか同じ舞台で戦いたいなと思っています。

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