広島県を拠点に活動する女子硬式野球の企業チーム・はつかいちサンブレイズに所属する西山小春（にしやま・こはる）さん。名門・神村学園高等部女子野球部を卒業後、翌年には念願だった女子プロ野球選手としてのキャリアをスタートさせました。しかし2021年、所属選手の相次ぐ退団により、女子野球のプロリーグは解散という厳しい現実を迎えることになってしまいます。

その後、2021年に結成された『はつかいちサンブレイズ』に入団。現在は野球選手としての活動にとどまらず、SNS発信や地域に密着したイベント活動にも積極的に取り組んでいます。なぜ女子野球を続けてきたのか。そして、楽しみながら活動を続ける原動力は一体どこにあるのでしょうか。

野球選手としての経歴からチーム活動について、さらにSNS発信への思いなどを語っていただきました。

強い想いが結んだ『はつかいちサンブレイズ』との出会い

ー改めて野球を始めたきっかけを教えてください。

小学2年生の頃、母に「習い事をするなら野球か塾どっちが良い？」と聞かれたことがきっかけです。兄が野球をやっていたので親近感があり、少年野球を始めました。

その後地元の先輩に誘われ、一度はソフトボールに転向しましたが、中学に上がるタイミングで兄の所属するチームの監督に声をかけてもらい、硬式野球に戻ることに。野球道具も提供してあげるからとも言っていただけたので、両親も嬉しいかなと思ったんです。

ー高校では神村学園の女子野球部に入部されます。中学時代から変化はありましたか？

中学硬式野球の女子の先輩が神村学園でプレーしていたことや、母の勧めもあり進学を決めました。

スピード感や力強さは男子の方が優れているので、当初はすべてが遅く感じることもありました。中学で男子と一緒に野球をやってきてよかったなと感じましたし、逆に衰えないように頑張ろうと思っていました。

ープロ野球選手を目指したのは、いつからですか？

幼い頃からソフトボール選手が将来の夢だったのですが、私が中学生の頃に女子プロ野球ができると聞き、そこから夢が野球選手に変わりました。

ープロ入りするためには入団テストがあるのでしょうか？

入団テストは年に3回実施されていて、高校生の頃から挑戦していましたが、結果は実らず…。一度は就職し、小学校の調理師として働きながら、中学時代に所属していた硬式野球チームで練習を続けていました。チーム練習は週4日でしたが、それ以外の日もほぼ毎日グラウンドに自転車で通い、ひとりで練習を続けました。

途中、プロを諦めて企業チームに所属することも考えました。でも父に、「もう一度だけ受けてみたら」と言われたんです。その言葉を信じ、高校生で2回、社会人になってからは3回テストを受け、ようやくプロへの切符を掴むことができました。

ーそこから野球選手としてのプロ生活がスタートしますが、2021年女子プロ野球は事実上解散となってしまいます。

周りの選手が次々と退団していく中で、私は簡単にプロを辞めたくありませんでした。プロ野球選手で居続けることに意味があると思っていたんです。

ーどのような理由でチームを離れる方が多かったのですか？

コロナ禍で試合が開催できない時期が続いたことが大きな理由だったかもしれません。その中でも練習許可は降りていたので、できることを続けていました。

最終的にチームには、選手計3人だけが残りました。コロナが落ち着き、試合を再開しているチームを見ると羨ましいと思う気持ちもありましたが、所属するチームで再出発したいという思いが強かったので、また野球ができる人数を集めようと奮闘していました。

ーチームの人数集めはどのように行うのですか？

女子プロ野球に入団するにはトライアウトを受け、合格する必要があります。しかし、最終的にトライアウトが実施されないと伝えられ、チームに残っていた2人からも「辞めようと思っている」という話を聞きました。それならプロでなくても、野球ができる環境に移ろうと決意しました。

そんな中、広島県に新たな企業チームができるという話を聞いたんです。このチームこそが、現在所属する『はつかいちサンブレイズ』です。もともと広島東洋カープの鈴木誠也選手が大好きで広島に対する憧れがあったのと、1からチームを作ることに興味があったので、きっと人生経験になるだろうと思いました。

それまで先輩としてお世話になっていた岩谷美里さんにも「次は広島のチームに行きたいと思っているんです」と相談すると、「実は、そのチームの監督（当時は選手兼任）をやることになったんだ」と打ち明けられました。お互いまったく知らなかったので、本当に驚きましたね（笑）。

ー当時女子プロ野球は解散となり、辞めていく選手が多い中で、なぜ『はつかいちサンブレイズ』はそのタイミングでチームを作る決断をされたのでしょうか？

2020年12月に廿日市市が女子野球タウンに認定されたのと、社長が女子野球を発展させたいという強い思いを持っていたことが理由だと思います。

地元・広島を中心にファンの輪を広げていく。選手主体で交流を深める背景とは？

ーチームでは、SNSを通じた発信活動にも力を入れていますよね。きっかけがあれば教えてください。

チーム結成時の方針として、「SNSにも力を入れていこう」という話がありました。チームが本格的に始動する前に投稿をスタートさせたので、ちょうど5年ほど前のこと。当時は、私と監督の2人しかいませんでした。

ー現在は、かなりの本数を投稿されていますよね。選手活動の中、SNS発信を続けるのは大変ではありませんか？

企業チームなのでチームメイトと毎日会うことができますし、仕事の一環としてYouTubeやTikTokの撮影ができるので、投稿頻度の多さに繋がっているのだと思いますね。

ー企画も皆さんで考えているのですか？

そうですね。私と監督を中心に企画会議をしています。基本的には私が考えてきたものをベースに、みんなのアイデアを加えて企画を作っていきます。

一地元の方々と関係を築いていくために、地道な活動も必要になるかと思います。今までにどんなことを行ってきましたか？

会社の社長が福島県に縁があったことから、福島県の復興支援米を地元の杉並台団地約800世帯で配る活動を行いました。

まずは全世帯分のお米を袋詰めするところからスタート。お菓子と名刺、チラシを添えて、一軒一軒インターホンを押して訪ねながら配りました。当時はチームに4人しかおらず、かなり大変でしたね。

もともと佐川急便さんの男子野球チームが使用していたグラウンドで活動をしていることや広島東洋カープが身近な存在であるからか、地域の方々は野球への親しみがある方が多い印象です。「応援してます」と声をかけてくださる方もたくさんいたので、とてもありがたかったです。

ーなぜ一軒一軒、直接家を回ることにしたのですか？

「地域の皆さんに応援していただけるチームを目指したい」という思いがありました。野球をしていると、どうしても選手の声やプレーの音でご迷惑をおかけしてしまうこともあると思います。だからこそ活動を始める前に、きちんとご挨拶に伺うことが大切だと考えたんです。

ー現在でも地域密着の活動は続けられていると思います。印象に残っていることがあれば教えてください。

本当にいろいろなことをやってきたので、一つに絞るのは難しいですね…。たとえば『レディースデー』で選手とのパン作り体験を企画したり、『オブジット』という大人の野球教室を開催したり、子供向けの野球教室も実施しています。

また、約3年前に選手が運営するカフェをオープンしました。メニューは選手自ら考案したもので、選手が作ったパンを販売したり、育てたいちごをソースにしたドリンクを提供したりしています。いちごソーダは人気メニューですね。

徐々にカフェにも足を運んでくださる方が増え、売り上げも上がっています。また、ファンの方だけでなく「（球場のある）杉並台から来ました」と声をかけてくださる方も増えてきました。そういった活動を通じて、地域の方の温かさを実感しています。

ー農業にも取り組まれているんですね。

いちごの栽培を行なっていて、イベントで販売することもあります。地域の皆さんが「美味しかったよ」「いちごありがとう！」などと言ってくださるのを聞くと、とても嬉しいです。時期によっては、いちご狩りも実施しているので、是非足を運んでみてください。

その他にも、地域の方々に健康になってもらいたいという思いで、『応援健康ダンス』を行っています。これは選手が振り付けを考えて、月1〜2回、集会所や高齢者施設、球場などで実施しています。高齢者の方々を中心に、多い時には30〜40名ほどが集まってくれています。過去には93歳の方が参加してくださったこともありました。今では曲が流れるだけで踊り出してくれる方もいるんです。

ーイベントが多いと、ファンの方々も親しみやすく感じると思います。

他のチームでもシーズン終了後のファン感謝祭といったイベントはあると思いますが、私たちのようにシーズン中でも交流イベントを行っているチームはあまり聞いたことがありません。地域の方々と直接関われることがすごく嬉しいですね。

選手活動もSNS発信も。すべては女子野球の発展のため

―西山さんは、個人でのSNS発信にも積極的に取り組まれています。なにより活動を楽しんでいる姿が印象的です。

そもそも私がSNSを始めたのは、高校に入学する時です。地元を離れて野球をすることを決めたので、投稿を通じて家族や友人に「元気で頑張っているよ」と伝えることが目的でした。

発信を続けるうちに、「女子野球の普及や女の子が野球を始めるきっかけになれば」という思いに変わっていったんです。

「元気をもらいました」というコメントや、最近では娘さんが野球をしている親御さんから「男の子と同じチームで苦戦しています」といったメッセージをいただくことも。直接声が届くと私自身の励みにもなりますし、できる限り返信するようにしています。応援してくださる皆さんへ感謝の気持ちを込めて、これからも発信は続けていきたいです。

―それが選手としての結果にもつながっていますよね。

そうですね。SNSに投稿するプレー動画や写真は、ファンの方に撮っていただいたものが多いのですが、「ヒットや盗塁を決めないと投稿しない」と自分にルールを課しているんです。結果を出さないと投稿できないので、試合でも頑張るモチベーションになっています。

―ファンの方にとっても、自分が撮った動画が選手のSNSに載るのは嬉しいですよね。

実際にファンの方に聞いたら、「とても嬉しい」と言ってくださいました。そういった声が、私にとっても「もっと頑張ろう」と思えるモチベーションにつながっています。

―ファンの方とのやり取りの中で、印象に残っているリクエストや実際にやってみたことがあれば教えてください。

少し前にバズった、ナチョス。にしむらさんの『球が伸びる彼女』という野球ネタに便乗して『バットコントロールえぐい女の子』というネタ動画を投稿したんです。

 

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すると多くの反響をいただいて、「次は盗塁をしてほしい」「こんな服装でノックしてほしい」といった声が寄せられたので、それに応える形で動画を作りました。

チームで毎月開催している『オブジット（大人向けの野球教室）』での出来事も印象に残っています。

以前TikTokに投稿した『人狼ノック』という企画に、「次のオブジットでやってみたい」というコメントをいただいたんです。その声をイベントを担当している選手に伝えたので、今後イベントの内容に組み込んでいきたいなと思っています。

 

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はつかいちサンブレイズ女子野球(@hatsukaichisunblaze)がシェアした投稿

―とても良い循環が生まれていますね。

ファンの方は、自分のコメントが実際の企画になり嬉しいとおっしゃってくださいますし、私たちにとってもネタに困らなくなるので、お互いにとって良い関係が築けているなと感じます。

―では改めて、「はつかいちサンブレイズ」の好きなところを教えてください。

SNSを見ていただければ分かると思いますが、監督も選手も本当に個性豊かです。そんな仲間たちと野球をしたり、仕事をしたりするのが本当に楽しくてたまりません。選手が主体となって野球以外のことにも積極的に取り組んでいるところも、サンブレイズならではの魅力だと思います。

ファンの皆さんの存在もとても大きいです。最近では地元だけでなく遠征先でも「応援してます」と声をかけていただいて、つながりを実感できるのが嬉しいです。

―最後に、今後の目標を教えてください。

私自身の目標は、女子野球のワールドカップで日本代表に選ばれること。そしてチームとしては、全員で力を合わせてプレーして、女子野球日本一を目指したいと思っています！