富士通レッドウェーブ・前澤澪が明かす、産後復帰後のワクワク感「自分はどこまで変われるんだろう」

女子バスケ・富士通レッドウェーブの前澤澪(まえざわ・みお)選手は、2021-2022シーズンをもって現役引退。その後、結婚、出産を経て、2025年に選手復帰を果たしました。

学生時代から全国大会で輝かしい成績を残し、富士通レッドウェーブ加入後も日本代表に選出されるなど、日本を代表するプレイヤーとして活躍。2021年には3×3日本代表として東京オリンピックにも出場しました。

「今しかできないと感じた」復帰に向けて再燃したバスケットボールへの思いや、育児と競技を両立する現在の生活、そして一度離れたからこそ実感している“バスケットボールが楽しいという感覚”についてお聞きしました。

地元・神奈川チームでの国体参加が現役復帰のきっかけに

ー2022年に引退を発表し、結婚、出産を経て、現役復帰を果たしました。一度、引退を決めた際は、どのようなキャリアを思い描いていたのでしょうか?

引退自体は2021-2022シーズンが始まる前に決めていました。引退後は富士通に社員として残り、サッカー選手である夫を支えていこうと考えていました。

もちろんバスケを通して成長させていただいたので、何かしら恩返しをしたいという思いもありました。ただ、すぐに何かをするというよりは、自分の生活基盤が整ったタイミングでやれたらいいなと。

ーそんな中、現役復帰を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

産後4ヶ月くらいの時、国民スポーツ大会(国体)の神奈川県チームに参加したことがきっかけです。トップレベルでプレーしていた経験を活かして、チームに良い影響を与えてほしいと声をかけていただきました。

ー産後すぐに声がかかったのですね。当時は前向きに参加を決めたのですか?

一番は不安な気持ちが大きかったですし、「絶対に動けないですよ」と伝えていました(笑)それでも参加してほしいと言っていただけて、プレーだけではない部分でも必要としてもらえているんだなと感じました。ずっと神奈川でバスケを続けてきましたし、地元のためにできることがあるんだったら頑張りたいなと。

ー実際、国体に参加してみていかがでしたか?

やっぱりバスケは楽しいなと思いました。正直、現役時代は「練習しなきゃ」「上手くならなきゃ」という義務感で、楽しさを忘れかけていた時期もありました。ただ、国体では久しぶりにたくさんの人と関わりながらバスケができて、みんなで勝とう!頑張ろう!という雰囲気を純粋に楽しめました。

一方で、自分がイメージしている動きができない悔しさもありました。産後で身体の不調が出てきてしまうこともありましたし、当時は青森に住んでいたので練習にもあまり参加できず、申し訳なかったなと。

古巣・レッドウェーブへの想いと葛藤「富士通では復帰できないと…」

ー青森から神奈川へ通っていたのですか?

夫が青森のチームに所属していたので、青森からリモートワークをしていたんです。神奈川へは、基本的に1ヶ月に一度のペースで通っていました。

ー国体を終えてからは、どのように現役復帰が現実味を帯びてきたのですか?

まずは、夫に相談をしました。もともと現役を引退してから「やりたいことがない」と話していたこともあり、「今しかできないし、やりたいことがあるなら、やったほうがいい」と言ってくれました。そこから家族と相談しながら、現役復帰に向けて動き出しました。

ーご家族との相談の中では、どのようなお話をされたのですか?

両親は現役中からずっと応援してくれているので、今回も復帰を伝えたら飛び上がって喜んでくれました。子育ても最大限サポートするからと言ってくれて、本当にありがたかったですね。

夫は翌シーズンも青森でプレーする選択肢もあった中で、最終的には家族全員で神奈川へ移ることを決断してくれました。単身赴任という形も検討したのですが、夫は家族ファーストだったので「それはできない」と。

夫に関しては現役の選手なので、私も彼を優先して支えるべきなのかなと考えていました。そんな中で私の気持ちを理解してくれたのは、申し訳ない気持ちもありましたが、すごく感謝しています。

育児と競技を両立するため、必要不可欠な周囲のサポート

ー現在はどういったスケジュールで過ごしていらっしゃるのでしょうか?

基本的に日中は私も夫も練習があるので、平日と土曜日は子どもを保育園に預けています。日曜日に練習や試合が入ってしまった時などは、保育園もお休みなので両親に協力してもらっています。

私は1日中練習があるので、どうしても帰りが遅くなってしまうんですよね。基本的に保育園のお迎えは夫にお願いしていて、私が帰宅すると「お風呂も済ませてあるよ」と言われることも多くて。

正直、夫への負担が大きくなってしまっているなと。そこは今後改善していかなきゃいけない課題だと受け止めています。

ー復帰してからバスケットボールに対して意識は変わりましたか?

みんなと一緒にバスケができて楽しい、というのが一番大きいですね。それに加えて、高いレベルでバスケができる楽しさもすごく感じています。

出産を経て、ゼロ、もしくはマイナスの状態からのスタートだったのですが、今は少しずつ動けるようになってきています。短期間でも変化を感じられるからこそ、「自分はどこまで変われるんだろう」というワクワク感がすごくあって、それがすごく楽しいです。

身体も気持ちもいったんゼロにリセットされた感覚があるんです。だから、「できないのは当たり前」というマインドになっていて、今は何を言われても素直に受け入れられるんですよね。

以前は、自分なりに積み重ねてきたものがあって、プライドやこだわりもありました。でも今は、それが良い意味でなくなって、とにかく何でも吸収したいという気持ちが強いです。

ー家に帰ったらお母さんとして切り替えている部分はありますか?

家に帰って子どもと過ごしている時間は、バスケのことを完全に忘れられる瞬間ですね。もともと考え込んでしまうタイプなのですが、娘と触れ合うと気持ちがフレッシュになるので、プラスの時間になっていると思います。

「娘にプレーを見せるため、1分でも1秒でも長くコートに立ちたい」

ー復帰してチームの中ではどのような役割を担いたいと考えていますか?

今は長い時間コートに立てるわけではないからこそ、自分が出場することで流れを変えたり、ペースを上げたり、良い流れをつくれる存在になりたいと思っています。

若手選手に対しては、一緒に上手くなっていきたい気持ちが強いです。私が努力する姿勢を見せることで、チーム全体の底上げに繋げられたらなと。

コーチからも「行動で示してほしい」と言われているので、たとえ試合に出られなかったとしても、そこは最低限自分ができることとしてやっていきたいと思っています。

ー復帰した時のチームにはどのような印象を受けましたか?

私が引退する前、当時1〜2年目だった選手たちの成長を感じました。チーム全体にピリッと引き締まった雰囲気があって、良いチームになっているなと。

ー結婚、出産などのライフイベントと競技を続けることの両立で悩んでいるアスリートは少なくないと思います。産後復帰を果たした前澤選手からメッセージをいただけますか?

私は、やりたいことがあったらやらないと絶対に後悔するタイプなんです。やらなかった後悔は、ずっと心に残ってしまうんですよね。だからこそ、自分の中で「やりたい」と思うことがあるなら、迷わずやったほうがいいと思っています。

ー最後に今後の目標をお願いします。

まずは、出産を経て心身ともにマイナスからのスタートになっているので、今シーズン1年を通して怪我をせずプレーすること。

あとは、とにかく試合に出たいです。私が復帰を決めた理由の一つに、「娘にプレーしている姿を見せたい」というのがあって。もし応援に来てくれても、ずっとベンチに座っている姿しか見せられなかったら、「なんで出てないの?」って絶対に言われるので(笑)だから、1分でも1秒でも長くコートに立ちたいですね。

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