「助けられ力」をあげる3つのポイント。海外での選手生活、充実のコツは(フロアボール日本代表・高橋由衣)

高橋由衣さん

小学校1年生で室内ホッケーのフロアボールをはじめ、15歳で日本代表に選出された高橋由衣選手。現在は競技発祥の地である本場スウェーデンを拠点に、選手として活動する傍ら、現地の小学生に日本語や日本文化を教えています。

フロアボール日本代表と小学校の先生という2つの夢を叶えた、高橋選手。夢を叶えることは「自分一人の力ではなし得なかった」と語る彼女に、“人から助けてもらえる力”の秘密を伺いました。

聞き手:小田菜南子、文:横畠花歩

 

「助けられる力」を発揮して、前途多難の海外渡航を実現

小田
スウェーデンでのプレーを決めたのはなぜですか?
髙橋選手
大学3年生のときに進路を決める際、教員として働きながら日本代表として世界で戦うことは無理だと思い決意しました。
大学で競技を一区切りする人もいると思うんですけど、卒業後に単身でスウェーデンに渡るのは勇気がいることじゃなかったですか?
当時は「海外で競技漬けの生活をする」ことしか頭になかったです。教育実習に行った先で「小学校の先生になるのは競技を引退してからでもいいんじゃない?」というアドバイスをもらって。自分の実力的に海外でも戦えるという手応えがあったし、伸び盛りなのに競技をやめる必要はないかなと。

15歳から日の丸を背負う(写真提供:高橋由衣さん)

大きな決断なのに、全く迷いが感じられない……!
迷いはなかったですが、海外行きはスムーズではなかったですね。スウェーデン行きを決めてから、現地で1年間生活できるだけの貯金をするためにアルバイトをしたり、副専攻で日本語教師の資格取得のための授業も受講しました。

ビザも取得しなければならなかったのですが、当時は今のようなインターネットツールがなくて。スウェーデンからの留学生を探して教室の外で待ち伏せして、拙い英語でなんとか手伝いをお願いして、スポーツ教育専門学校への入学に漕ぎ着けることができたんです。

その留学生もびっくりしたでしょうね。フロアボールをやる環境は先に見つけてから行ったんですか?
どこでプレイをするか、まったく当てもないままスウェーデン入りしました。英語も堪能とは言えず、公用語であるスウェーデン語もまったく話せない状態でしたね。
そこからどうやって競技環境を見つけたんでしょうか。
現地での滞在先にとホストファミリーを探したんですが、彼らがとても親切で。チームに問い合わせをしてトライアウトの予定を取り付けてくれたり、私のマネージャー代わりをしてくれたんです。
すごく協力的!留学生といいホストファミリーといい、そういう方を見つけるのが上手だから?
う〜ん……なんでなんだろう。そういう人を見つけるのが上手いというより、必死な私を「結果的にサポートしてくれた」という感じですね。

ホストファミリーのママと(写真提供:高橋由衣さん)

 

「助けられ上手」になるには?

小田
周りの人たちが、そこまで由衣さんに力を貸したくなる理由ってなんだと思いますか?
髙橋選手
あらためて振り返ると、「意志が強い」からかなと思います。自分がやりたいことを明確に、「これをやりたいから助けてほしい」ってストレートに言葉に出して伝えられる人って、少なくないですか?
たしかに。遠慮してしまったり、そもそも何をしてくれたら助かるのかがあやふやかもしれないです。
もちろん「助けてほしい」とお願いする前に、自分で最大限の努力はしています。そのうえで、「自分でできる限界はここまでで、これ以上はできない。だからその先に行くためにあなたの手を借りたい」というふうに、手伝ってほしいことを明確にしてからお願いをしますね。
頼まれる側も、自分がどうすればいいのかが具体的にわかると、「そこに私がいれば、この人は次に進めるんだ」と未来が描きやすいのかもしれないですね。
あとは、日本人特有かもしれないですけど「ありがとう」って、習慣的に相手に伝えるじゃないですか。「私のためにここまでしてくれてありがとう」って。それに対してスウェーデン人からは、「自分がしたことに対して、ここまで恩を感じてくれている人を見たことがない」と言われました。

スポーツ教育専門学校にて、相撲のポーズをとる(写真提供:高橋由衣さん)

日本とは「ありがとう」を使う頻度や表現方法が違うんでしょうか?
スウェーデンでは「人に何か頼むことが当たり前の文化」だったりします。「迎えに来て」や「持って来て」。日本だと気軽に頼みづらかったりすることを、当然のようにおこなうんです。そして、それが普通。彼らもお礼を言わないわけではないんですけど、私の「ほんっとごめんね、本当にありがとう!」は心に響くみたいです(笑)。
お願いの仕方も上手だし、それに対するお礼も心の底から伝える。由衣さんの素直さだったり誠実さが、助けられる力に繋がるんですね。
スウェーデンではフロアボールが人気で、わざわざ地球の反対側からプレイしに来たのも嬉しかったと言ってました。たしかに私も、スウェーデンから日本に剣道や柔道をやりに来た人がいたら「応援したいな〜」って思っちゃいますもんね。
高橋選手の「助けられ力」ほしい!「人の力を借りるのが苦手な女性」って多いと思うんです、全部自分でやらなきゃって思っちゃう人。「頑張ります、自分でやります!」で頑張れたらいいんですけど、限界を迎えたときに「助けて」が言えないと、自分で自分の首を絞める結果にもなっちゃいますよね。

国際フロアボール連盟選手会のメンバーと(写真提供:高橋由衣さん)

■“助けられ力”をあげるポイント

①意志の強さを相手に伝える
②目標と、その達成のために「助けてほしいこと」を明確化する
③相手には言いすぎなほどきちんとお礼を言う

 

夢を叶える場所は、世界のどこだっていい

小田
今はスウェーデンで、小学生に日本語を教えられているとのことですが、現地での生活について教えてください。
髙橋選手
今は『日本語母語教師』として、日本にルーツのある子どもたちに日本語を教えています。外国にルーツがある場合は、その言語もちゃんとキープしようという国の方針です。スウェーデン語と日本語を使うクラスで、いくつかの学校を掛け持ちして教えています。
文化への尊重を感じますね。スウェーデンで実際に教師として働いてみて、日本と比較してどちらの環境がいいと思いますか?
スウェーデンです。残業はなく休憩時間もきちんとあって、年間の有給は3ヶ月半。全職種に対して、「仕事も大事だけど、自分の自由な時間も大切にしましょう」という考えがあるので、どんな仕事に就いたとしても選手との両立ができる貴重な環境だと思っています。
ちなみに現地チームと日本代表は、どのように両立してるんですか?
日本代表選手として試合に参加するときは現地集合をしています。大会本番に他のメンバーと顔合わせというのは前例がないことだったので、最初はコミュニケーション不足が発生したり、プレイに戸惑いも出ました。
それでも由衣さんは日本に拠点を移さず、海外で活動することを選ばれたんですね。
そうですね。スウェーデンでの目標は「トップリーグでプレイをすること」なんですけど、まだ実現できてなくて。もちろん日本代表として、過去最高位を取りたいという目標や、日本の競技水準を上げたい気持ちはあるんです。なので、前回大会からはコーチ兼任選手として代表に残り、食事や戦術などにも携わるようにしています。

日本の競技水準をあげるという責任を感じている(写真提供:高橋由衣さん)

本場スウェーデンのトップリーグ入りを目指しながらも、日本代表として戦い続ける理由はなんですか?
責任感ですね。日本には戦術や技術に長けた指導者がほとんどおらず、競技をする環境も整っていません。代表選手は自費で世界大会に出場して、毎回同じ気持ちで肩を落として帰ってきます。初めて出場した16歳の頃から32歳になった今まで、体制的にほとんど何も変わってないんです。後輩たちに同じ思いをさせ続けたくないという一心で、日本代表としてコートに立ち続けています。
その責任感はどこからくるんですか?
私が今、スウェーデンで異文化に触れたり生活できているのは、人生にフロアボールがあったからです。15歳のころから日本代表として出場するチャンスをもらって、いろんな経験をさせてもらったおかげだなと。今の私を作ってくれたフロアボールと日本に、恩返しをしたい気持ちが根底にあります。
場所に縛られることなく夢を追い続ける姿、かっこいいです!
2022年3月で、現在のチーム(現地2部リーグの『IBF Dalen』)との契約が満了するので、それが一区切りにはなると思います。チーム側は「先のことはそのときになったら考えよう」と言ってくれてるので、選手として続投するか否かも、そのときになったら考えます。今後も自分が望むことを実現できるよう、貪欲に向き合っていきたいですね。

 

■プロフィール

高橋 由衣(たかはし ゆい)

神奈川県出身。小学校1年生のころにフロアボールをはじめる。15歳で日本代表に選ばれ、翌年には世界選手権に初出場。大学卒業後にフロアボール発祥の地であるスウェーデンに拠点を移し、現在は現地2部リーグの『IBF Dalen』で選手として活躍する傍ら、日本代表コーチ兼選手として活躍中。

Twitter:@yui_t10

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