月経困難症、ピルが合わなくても次の手がある。産婦人科医・プロボクサー 高橋怜奈さん

産婦人科医・YouTuberとして、月経痛・ピル・妊娠・性教育・婦人科検診など、これまでオープンに語られることが少なかった情報を医師という立場から積極的に発信する高橋怜奈先生。

 

実はプロボクサーとして活動するアスリートという顔も持つ高橋先生に、ご自身も経験された月経困難症への対処法と、症状に悩むアスリートに対する想いをお伺いしました。
(取材:小田菜南子、文:辻岡奈保美)

 

■高橋先生プロフィール

産婦人科医 髙橋怜奈先生

東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科在籍。医学博士。趣味はベリーダンス、ボクシング、バックパッカーの旅。2016年6月にボクシングのプロテストに合格をし、世界初の女医ボクサーとして活躍中。ダイエットや食事療法、運動療法のアドバイスも行う。女医+(じょいぷらす)所属。

高橋先生のYoutubeチャンネル 『産婦人科医YouTuber高橋怜奈』

高橋先生のTwitter  @renatkhsh

 

毎月、生理痛やPMSがつらい…月経困難症は婦人科を頼って

 

高橋先生
アスリートの場合、練習や試合と生理が重なることは日常的によくあること。

中には、集中力が下がっても仕方ないと諦めていたり、しばらく我慢すれば治まるからと思ってそのままにしている方も多いのではないでしょうか。

しかし毎月生理の前後の期間を含めて半月程度を我慢して過ごしている人の場合、1年に換算すると何百日もの期間、生理に悩まされているということになります。痛み止め以外の薬を飲むほどではないと結論を出す前に、ぜひ婦人科医に相談してほしいものです。

 

 

月経困難症にはピル!だけではない

 

高橋先生
月経困難症の治療には低用量ピルや、ピルが使えない方でも使用できる黄体ホルモン療法、避妊リング・IUS(ミレーナ®︎)など、選択肢がいくつかあります。

いずれも毎月の生理が軽くなったり、生理自体を止めることができるので、生理痛やPMSの軽減の他、経血の量が多くて練習や試合中の心配が尽きないというアスリートにとってはメリットが大きい方法です。

 

低用量ピル

 

 

高橋先生
卵巣でつくられる卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2つが主成分である経口避妊薬。

毎月の排卵が止まったり月経が軽くなったり、月経回数を減らすことができるので、避妊以外にも、月経困難症の方、PMSやPMDDのある方、子宮内膜症や卵巣癌のリスクを低下させたい方におすすめです。副作用としては、飲みはじめに胸の張りや吐き気、不正出血などが起こることがあります。

またピルは、ピルを服用していない方に比べて血栓症のリスクが上がるため、ヘビースモーカーの方、肥満の方、他の基礎疾患がある方などには、処方できない場合があります。ピルが使えない場合は、次に説明するホルモン療法を提案します。

 

黄体ホルモン療法

 

 

高橋先生
黄体ホルモンの薬を服用すると、排卵・月経が止まります。エストロゲンが含まれていないため血栓症のリスクは上がりませんが、不正出血や人によっては更年期症状が起こる方もいます。

リスクがあってピルを使うことができない方や、ピルがどうしても合わない、という方にはこちらをおすすめしています。

また、女性には片頭痛持ちの方も多いのですが、基本的には前兆のある頭痛がある場合(頭痛の前に目がチカチカする閃輝性暗点の症状や目がかすむなど)はピルを飲んではいけないことになっています。なので、そういった方にもよくお出ししています。

 

避妊リング・IUS(ミレーナ®)

 

 

高橋先生
子宮内に挿入しておくことで、合成黄体ホルモンであるレボノルゲストレルを持続的に放出し約5年という長期間にわたって高い避妊効果を発揮する子宮内システムです。

避妊目的だけの方の場合は自費ですが、月経困難症や過多月経があれば保険適応になります。

 

毎日服用しなければいけないという継続的な習慣を必要としないので、うっかり服用を忘れてしまう方にも良いでしょう。約5人に1人は生理が止まり、それ以外の方でも生理の日数が減ったり量が少なくなったり、生理が軽くなります。

血栓症のリスクが上がらないのと、ピルが使えない方でも使用することができるのが特徴です。副作用としては不正出血や挿入直後の軽い腹痛などです。

 

ミレーナ®︎はどんな方でも使えるのですか?

 

高橋先生
ミレーナ®︎は膣から挿入するので性交経験が無い方だと挿入が難しい場合もあります。内診が難しい方がどうしてもミレーナ®︎を使いたいとご希望される場合は、医療機関によりますが静脈麻酔を使ってくれるところもあります。
性交経験がなくても膣からの内診ができる場合は挿入が可能です。

ただ性交経験が無い方に最初からミレーナ®︎を第一選択でご提案することはほぼ無く、まずはピルや黄体ホルモン療法を試してみましょうか、という話をします。

 

あれこれ言われるピルのリスク。それって本当?

 

ピルはアスリートにも徐々に浸透してきた気がしますが、アスリートがピルを嫌厭される理由で多いものは何ですか?

 

高橋先生
血栓症やドーピング・副作用・筋肉への影響を心配する方が結構います。

どんなピルでも血栓症のリスクはゼロではありませんが、過剰に不安になることはありません。実はピル服用者よりも妊娠中の女性のほうが血栓症になるリスクは高いのですが、そのことも意外と知られていない事実ですよね。

また、ピルはドーピング違反にはなりませんので気にする必要はないんです。

それから、私もボクサーですが、格闘技系の女性だと厳密な体重コントロールも必要とされますし、やはり副作用によって浮腫む・体重が増えるってイメージがあって嫌厭する人もいますね。

でも実際は、いろんな研究結果で体重増加との因果関係はないと言われています。

 

ただピルを飲み始めて最初の1、2ヶ月程は、人によっては浮腫むこともあるので、試合の2ヶ月前から始める、などはやめておいた方がいいとは思います。

 

 

筋肉への影響を懸念される方も?

 

高橋先生
ピルって男性ホルモンが抑えられているものもあるので、筋力が必要なアスリートだと筋肉がつきづらくなってしまうのでは、と嫌がる人もいます。

実際には僅かな差なので筋力に関しては関連しないと考えられますが、それでも心配される方には男性ホルモン活性のあるピルをすすめたりします。

こちらも男性ホルモンそのものが入っているわけではないのでドーピング違反にはなりません。

反対に生理中の肌荒れが気になるという人には、男性ホルモン活性のないピルを。顎のニキビとか吹き出物って男性ホルモンが優位だとできてしまうので、肌荒れに悩む方には男性ホルモン活性のないものを処方します。ただ、男性ホルモン活性がないと性欲が落ちてしまう可能性もあるので、その辺を気にする方もいらっしゃいますね。

 

症状や状況によって、自分に合うピルを処方してもらえるのですね。

 

高橋先生
現状をお聞きして、いろいろな可能性をお伝えした上で処方しています。

理論上は女性ホルモンが…男性ホルモンが…など色々あるのですが、実際は飲んでみないとわからない部分も大きいので、飲んでみて気になることがあったら別の種類のピルや別の方法に変えてみよう、という感じです。

 

最初に試したピルが合わないと「もうピルは嫌!」と、やめてしまう人も多いように思います。

 

高橋先生
ピル自体にも種類がたくさんあることって意外と知られていないですよね。ひとつのピルが合わないからといって諦めてしまうのは、結構もったいないです。

 

こっちのピルは浮腫みやすかったけどこっちは大丈夫という人もいるので、合わないなと感じたら別の種類に変える方法も検討してみてください。クリニックによって処方できる種類が違ってきますので、最初はなるべく多くのピルを扱っているクリニックを探して行ってみると良いと思いますよ。

 

 

プロボクサーとしても活動する高橋先生のピル生活

 

高橋先生自身もピルを長年服用されているんですよね、どういったきっかけで始められたのですか?

 

高橋先生
生理不順と生理痛の改善、避妊目的をきっかけに、研修医になった24歳ぐらいの頃から始めたので、もう12年ぐらい飲んでいます。1種類のピルを9年ぐらい続けていて、最近は他のも試したり。現状、1年半ぐらい生理は起こしていないですね。

実は実際にピルをスタートする以前にも、大学4、5年生のときに生理痛と経血量が多いことで婦人科に相談に行ったことがあって、先生にピルを勧められていたんです。でもその時はピルに対する知識もあまりなく、そこまで大袈裟なことじゃないですって感じで断ってしまいました。今考えれば、その時から飲んでおけばよかったって思います。

きちんとピルのことを知ってからは、皆さんにはもっと気軽に捉えてもらいたいなと思うようになりましたね。
今は、ピルをはじめとする今回お話したような情報について、もっと正しく広がったらいいなと思っています。

 

プロアスリートになってわかった“身体よりも競技優先”という気持ち

 

高橋先生自身がボクサーとしてプロのアスリートとなったことで、婦人科系の症状に悩むアスリートに対する気持ちに変化はありましたか?

 

高橋先生
医者だけをしていた時は、例えば何か病気があったら手術、生理がなかったらホルモン治療、とか単純に考えていたんです。でもアスリートって、骨折したとしても試合に出たい気持ちとか、あると思うんですよ。そういう気持ちがわかるようになりました。

身体よりも競技優先という人の気持ちがわかるからこそ、今なら相談にのれることがあるのかなって思います。

例えば、フィギュアとか審美系の競技などで体重減少によって生理が止まってしまっている人に対して、むやみやたらに体重を1ヶ月で何キロ増やしましょうって言っても難しいと思うんです。

医者にそう言われることで逆に精神状態が悪くなってしまうかもしれないですし、生きる死ぬだけじゃない、そのほかにも尊重しなければいけない部分があるということはアスリートになってみて気づきましたね。

 

アスリート側の立場に立てたことで、アスリートならではの体とメンタルのバランスにもより一層配慮されていらっしゃるのですね。

高橋先生、本日はありがとうございました。

 

後記

ピルにもさまざまな種類があることや月経困難症やPMSにはピル以外の対処法もあることなど、意外と知らない貴重なお話を伺うことができました。

月経によって競技や練習に少しでも影響が出ていると感じているアスリートは、一度産婦人科に行って相談してみるのが良さそうです。

 

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