楽しさ、心理的安全性、成長期、恋愛…女子陸上界の現状とは?加納由理と「選手たちの心と健康を考える」

2023年3月26日(日)北沢ホール(東京都世田谷区)で、第1回 Players Centered Projectが開催されました。

プロジェクトリーダーの加納由理さんは、長年続く女子選手のレース中によるアクシデントへの問題提起を掲げて、選手たちが、“心” も “身体” も健康でいて欲しいという強い思いからこのプロジェクトを立ち上げました。

今回は、Players Centered Projectオープニングイベントの様子をお届けします。

【プロジェクトメンバー】

長尾彰さん(組織開発ファシリテーター)
加納由理さん(元日本代表マラソン選手)
村岡温子さん(実業団元長距離選手)
河口文さん(実業団元長距離選手)
特別ゲスト:萩原 歩美さん(元陸上日本代表)

加納由理さん。マラソン元日本代表、Players Centered Projectのリーダー。

第一部は、プロジェクトメンバーによる「#トーク(ハッシュタグトーク)」が行なわれました。キーワードが書かれたカードを引き、2分間ディスカッション。本音が話せるようにと、輪になってスタートしました。

#1【心理的安全性】

加納:怒られるのが怖くて、指導者に怪我のことを伝えられませんでした。我慢して、どんどん悪化してしまって…。相手の顔色を伺わずに、気軽に相談できる関係性を作ることが大事だと思っています。

萩原:どの段階で相談できるかが大事ですよね。私は監督やコーチと積極的にコミュニケーションをとっていた方でしたが、チームメイトは言えずに悩んでいました。「結果が出ていない人は、意見を言っても聞いてもらえないから」と。選手と指導者の仲介役になって意思疎通のお手伝いをしたこともあります。

河口:私も全然結果が出ていなかったので、何も言えなかったです。当時はすごく苦しかったですね。まずは自分のレベルを上げていかないと、本音を話せないと思っていました。

村岡:私も「どうせ話を聞いてもらえない」と思うと、発言できませんでした。指導者に自分の思いが伝わらず、理解されていないことが悲しかったですね。

加納:やはり気軽に小さなことでも共有できる関係性を作っていくことが大事ですよね。

萩原歩美さん。陸上元日本代表。2014年アジア大会銅メダル獲得。

#2【恋愛】

萩原:私は中学校の時結果が出ていなかったので、恋愛どころではなかったですね。

村岡:高校時代は交際禁止のルールがありました。きちんと守られていたのかはわからないですが…。

河口:高校は交際禁止をルールにしている学校が多いですよね。実業団でも、恋愛禁止の雰囲気があると思います。

長尾:どうして禁止されてしまうのでしょうか?

萩原:「女子は集中しきれなくなる」と、コーチに言われていましたね。

河口:「そんな時間があるなら、競技に打ち込みなさい」という空気感もありました。

村岡:たしかに、影響される選手もいますよね。

萩原:精神的に不安定になった選手もいましたね。でも実業団に入っても恋愛禁止だったら、「結婚できないじゃん」と(笑)。学生時代に恋愛願望はありましたか?

加納:陸上が楽しかったので、特に願望はなかったですね。

萩原:私は怪我で走れない時に、「彼氏が欲しい」と思っていました。同級生から彼氏との話を聞くたびに、羨ましかったことを覚えています。

村岡:ダメだと言われるとやりたくなるのが子供心かもしれません。恋愛は自由にできた方がいいと思います。

#3【成期期】

萩原:初潮が来て、変わったなと感じました。肉付きがよくなったり、怪我をしてしまったり。この頃から、生理との向き合い方や食事面、練習メニューを工夫し始めました。

河口:荻原さんと一緒で、中学生ぐらいから太りやすくなりました。その頃、別の学校の先生から「ちょっと太ってない?」と言われて、傷つきましたね。痩せないとと思い減量を始めましたが、成長期には難しかったです。

河口文さん。元実業団所属マラソン選手。現在は、ニューバランスのランニングコーチを務める。

#4【楽しさ】

長尾:僕はこのテーマが一番聞きたかったんです。僕はバスケットをずっとプレーしていましたが、戦略を考えたりシュート練習したり、NBAのプレーを見て真似することが楽しかったんです。皆さんは陸上のどういったところに楽しさを感じていましたか?

河口:中学時代はタイムも伸びて、自由に走れて特に楽しかったです。高校に入ってからは少し楽しさとは違った感覚に変わりましたが、その中でも、以前のタイムと比較して成長を実感できた時は嬉しかったですね。

村岡:私はチームメイトと走ることに、楽しさを感じていました。あとは河口さんと一緒で、以前の自分を超えられた時に楽しさを実感していました。

村岡温子さん。元実業団マラソン選手。高校駅伝優勝の経験がある。

加納:私は、その時々で楽しみ方が変わっていました。中学の頃は、どうすれば早く走れるか考えるのが楽しかったですし、高校は怒られた理由を考えることが楽しかったです。分析することが好きなんです。

萩原:学生時代は、速くなるのが楽しかったですね。実業団では結果が出た時に、友達やファンが増えることに楽しさを感じていました。

長尾:最近僕も走るようになって、楽しさがわかるようになりました。ゴールを少し先に設定をして、走り終えた時に達成感を感じています。小さい時に楽しさを味わっていたら、その後も続ける人が増えるのかなと。何をするにしても、楽しむことは大切ですよね。

選手に抱え込ませない、環境づくり

続いて、第2部のワークショップが始まりました。

テーブルごとに置かれている「選手・指導者・社会に対してできること」を議論し、置かれている付箋へアイデアを記入していきます。

元アスリート、ファン、指導者がそれぞれの立場から意見を出し合いました。

選手に対してできること
・他競技との交流など視野を広げる
・選手が一人で抱え込まないよう、相談しやすい環境を作る

指導者ができること
・選手とのコミュニケーションを増やす
・「気軽に相談していい」雰囲気を作る

社会に対してできること
・陸上界の現状を隠さず、共有する場所を作る
・選手や指導者など現場の思いを発信する

この他にもたくさんの意見が出て会場は盛り上がり、あっという間にイベントが終了しました。最後の加納さんの挨拶では、「多方面の立場から意見を聞いて、たくさんのアイデアをいただきました。この活動を通して、より女子陸上界を作っていけるよう頑張っていきますので、みなさんのお力を貸してください。これからもよろしくお願いします!」と締めくくりイベントは終了しました。

選手たちが、“心” も “身体” も健康でいて欲しいという思いで始まったPlayers Centered Projectを、B&は引き続き応援していきます。

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