「これが私の生き方」大怪我から日本代表に復帰した朝比奈綾香(BMX)の軌跡

BMXライダーの朝比奈綾香(あさひな・あやか)さんは、8月に行われる「2023年 BMXレーシング ワールドチャレンジ」に日本代表として出場。

オリンピックを目指し、高校生の頃から世界で活躍していた朝比奈さん。しかし、大学生の時に交通事故に遭い、足の骨が剥き出しになるほどの大怪我を負いました。そんな苦難を乗り越え、ついに日本代表へ復帰を果たしたのです。

競技を離れて気がついたこと、日本代表復帰までの道のり、そしてこれまでの経験から競技に悩むアスリートに伝えたい思いを伺いました。

(聞き手・文:竹村幸)

転んでも笑っていた、BMXとの出会い

ーBMXを始めたきっかけを教えてください。

10歳のとき、両親と大泉緑地(大阪・堺市)でBMXのレースを見たことがきっかけです。もともと父がBMXに憧れていたのですが、金銭面で難しいと諦めたみたいで。最初は私の弟にやらせようと思っていたようですが、私が先に興味を持ちはじめました。初めて競技を見た次の週には、自転車を買いにいきましたね。

ー初めてコースを拝見しましたが、コースの高さに驚きました。怖さは感じませんでしたか?

それが怖くなかったんです。初めてコースを走ったとき、高い台から転んでしまったのですが、泣くどころかすごく楽しくて…(笑)。父もまさかのリアクションに驚いたみたいです。「私にはBMXが合っている!」と思えたきっかけでした。

ただ、高校生の頃から次第に恐怖心を覚えました。怪我や転倒の痛みを覚えてしまったんです。

ーまた怪我をするかもと、思うと怖いですよね。

そうですね。大きいジャンプに挑戦する海外のコースだと、恐怖心の克服が必須でした。成功体験を積み上げる必要があるので、怖くても何度も挑戦します。もう、根性ですよ(笑)。

ー恐怖に立ち向かう勇気が必要ですね…。

全日本大会直前での交通事故

ー大学生の時に、交通事故に遭って大きな怪我をしたとお聞きしました。

大学2年生のときですね。全日本選手権の数日前、遠征先で交通事故に遭いました。車と私の運転する自転車が正面衝突をして、両足に大きな怪我を負ってしまったんです。事故の直後は、自分の足の骨が見えていました。でも何より、競技への影響が心配でしたね。

ー骨が見えるほどの怪我をされても、自転車のことが心配だったんですね。

大事な全日本選手権の前だったので…。ただ、ICU(集中治療室)で療養していた手術後1ヶ月は、生きることが精一杯でした。食事も取れず痩せてしまい、ベッドから動けない時期もありましたね。少しずつ食べられるようになって、「リハビリ頑張ろう」「歩けるようになろう」と、前向きに考えられる時間も増えていきました。

ー復帰を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

先輩ライダーの方がお見舞いにきてくれたんです。いつも通り楽しく話していると、「来年の全日本選手権には出るよね?」と。まだ歩いてもいないのに、驚きましたね。でもこの言葉をきっかけに、BMXともう一度向き合わないといけないなと思うようになりました。

みんなに元気な姿をみてもらいたいという気持ちも芽生えて、復帰を目指すようになりました。ここまでの大怪我から、全日本に復帰するってカッコいいですよね。先輩のおかげで復帰を考えるようになったので、感謝です。

ー復帰を決めたあと、周りの反応はいかがでしたか?

主治医の先生に「自転車に乗りたいです」と相談したところ、「乗れるよ」と。あまりにも軽い返答だったので、驚きましたね。もしかしたら無理だと言われることも想定していたので、楽な気持ちでリハビリに入りました。

でも実は、日常生活で使う自転車と勘違いしていたみたいで…勘違いじゃなかったら、ダメだと言われていたかもしれないので良かったです(笑)。

そこから半年間は、日常生活を送れるようになるための手術やリハビリを行いました。それが終わって、やっと現役復帰に向けてのトレーニングが始まりました。

現在、私が所属しているしまだ病院に通院していたのですが、3ヶ月後に控えた全日本選手権には到底間に合わないと判断し、入院することに。リハビリは朝に1時間と、ジムでトレーニングをしたあとに再度行なう、という毎日でしたね。

ーまるで合宿ですね…。

そうですね。とっても痛い合宿でしたが、無事に全日本選手権に間に合わせることができました!

ー久しぶりの試合はいかがでしたか?

試合前は不安ばかりで、エリートコース(※)で走るのは最後かもしれないと思って挑みました。状態も万全な状態からはほど遠く、かろうじてコースを1周走れるレベル。でも、すごく楽しかったです。もちろん結果は最下位でしたが、出場できて本当によかったです。

※トップクラスが競うクラス。オリンピックの選考は、このクラスから行われる。

ー競技ができる楽しさを噛み締めたのですね。

競技を離れて、BMXがどれほど大事なものかに気がつきました。怪我を乗り越えてメンタルも強くなったのか、以前よりも考えながら競技に向き合えるようになりました。どんな状況でも諦めないことは、誰よりもできると思うんです。それに加えて自分をコントロールできるようになったのは、私の強みだと思っています。

8月、日本代表復帰へ。

ー昨年、エリートクラスを引退して、ご自身の年齢のクラスにステージを変えられましたね。決断したきっかけを教えてください。

オリンピックを目指して競技を続けていましたが、怪我に耐えられなかったんです。年齢が上がっていくなかで、このまま続けても自分の体が壊れていくだけだなと。

そこで、エリートクラスを離れる決断をしました。他にやりたいこともあったので、競技自体を続けるかどうかもすごく悩みましたね。

最終的には、復帰後の目標だった「世界の舞台で戦いたい」という気持ちを捨てきれず、現役続行を決めました。ランクを変えて挑戦をすれば、その目標に届くんじゃないかなと思って。それで無理だったら、もう辞めようと決意しました。

ーそれまではプロとして活動されていましたが、クラスが変わるとプロ契約から変更になるのでしょうか?

そうですね。プロ選手ではなくなります。アスリート雇用の契約で所属していた、しまだ病院を離れる覚悟もしていましたが、その後もサポートしていただけることになり、働きながら活動を続けています。

働きながら競技を続けることは、簡単なことではありません。それでも今まで通りしっかりトレーニングを積むことができたので、8月の世界大会に日本代表として選出されました。世界と戦うことを目標にしていたので、やっとその舞台に立つことができて嬉しいです。

ーどんな状況でも、諦めない朝比奈さんだからこそ掴んだ切符ですね。

ありがとうございます!でも、すべての悔しさがなくなったわけではありません。オリンピックという舞台に近づいていた時期もあったので、当時の悔しさはきっと残り続けるんだと思います。

怪我をした事実は変えられないので、それを受け入れて最善の道を見つけるしかないと思えるようになりました。周囲が何を言おうと、どんな結果になろうと、続けることが強さなのかなと。悩むところも多いですけど、自分に自信を持って、進んでいきたいなと思っています。これが今の私の生き方ですね。

周りがなんと言おうと楽しんでほしい

ー年齢を重ねていくなかで、コンディショニングが難しい部分があると思います。朝比奈さんが大事にされていることはありますか?

日頃から気をつけていることは、メンタル面でのコンディショニングです。先ほどはメンタルが強いと言いましたが、もともとネガティブになりやすい性格なんです。

メンタルを整える過程を大事にしているので、メンタルの勉強をしたいと考えています。今も自分で試行錯誤しながら勉強しています。将来的には、メンタルサポートのお仕事ができればいいなと。

ー朝比奈さんが実践されている、メンタルのコンディションを整える方法を教えてください。

落ち込んだときは、安心する感覚を思い出して、悪いイメージから離れるようにするんです。例えば、愛犬やぬいぐるみなどに触っている自分をイメージして、その感触を思い出します。そうすることで、リラックスしている自分を思い出し、気分を切り替えることができます。

またイメージだけではなく、行動を起こすことも切り替えるきっかけになります。私は悪い思考が巡ってくると髪の毛を触るようにして、意識を外へ向かせるようにしています。外を眺めるのもいいですし、体を動かすのもいいです。自分の中でルールを考えておくと良いと思います。

ー苦しい経験をされてきた朝比奈さんだからこそ、悩んでいる方に寄り添えますね。では、8月の世界大会に向けて、目標を教えてください。

久しぶりの世界大会ですが、ファイナリストになって世界と戦いたいです。ファイナリストになると、ワールドゼッケン(※)がもらえるのでそれを取りたいです!今年の世界選手権と、2024年の世界選手権まで現役で頑張ります!

※ワールドゼッケン:BMXワールドチャレンジの決勝進出者は、翌年の大会まで順位と同じゼッケンで走ることができる。

ー最後に、女性アスリートへメッセージをお願いします。

競技を続けていくと、さまざまな変化がありますよね。私の経験上、「怪我」と「メンタルコンディション」が大きな課題になってくると思います。その変化に気づきながら、何も対策を立てず我慢してしまうと、現役生活は長く続きません。大変かもしれませんが、自分と向き合って対策を考えることが大切になってきます。

自分のために環境を変える選択をすることもあるかと思います。自分が楽しければいいんです。周りに何を言われようと、自分が楽しめる環境を整えることがいちばんです。
何か相談事があれば、InstagramのDMで送ってください。人それぞれ悩みは違います。決め付けすぎず、最善の道を一緒に見つけましょう。

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