オリンピック新競技・フラッグフットボール 近江佑璃夏、日本人初プロ選手として切り拓く金メダルへの道
東京ヴェルディフラッグフットボールチーム ローゼス所属で、フラッグフットボール女子日本代表としても活動する近江佑璃夏(おうみ・ゆりか)選手。
フラッグフットボールとは、アメリカンフットボール(以下、アメフト)から派生した競技で、2028年ロサンゼルスオリンピックの競技としても採用されています。
かつては会社員としてフルタイムで働きながら、自ら立ち上げたチームの選手兼代表としても奔走してきた近江さん。なぜ彼女は、フラッグフットボールというスポーツにこれほどまでの情熱を捧げるのか。
競技と出会ったきっかけや魅力、世界中が注目するオリンピックに向けての想いに迫ります。
オリンピック新競技としても注目『フラッグフットボール』とは?
―フラッグフットボールという競技を初めて知る方もいらっしゃるかと思うので、まずはどのような競技なのか教えていただけますか?
フラッグフットボールは、アメフトから派生した競技です。身体的な接触(コンタクト)が排除されていることが特徴で、タックルの代わりに腰につけたフラッグを相手に抜かれることでプレーが止まるというルールになっています。
またフィールドのサイズが小さく、1チームあたりの人数が少ないところもアメフトとは異なる部分です。試合の進行としては、サッカーやバスケットボールにおけるセットプレーを繰り返しおこなうイメージです。プレーが終わるたびに“ハドル”と呼ばれる作戦会議を行い、次にどのプレーをするかをチームで決めて実行していきます。ちなみに、2028年のロサンゼルスオリンピックで追加競技としても採用されているんです。
ー近江さんが競技を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
両親がフラッグフットボールの選手だったことがきっかけです。小さい頃から週末は両親と練習場に行って遊んでいました。少しずつキャッチボールなど練習にも参加するようになり、中学1年生の時に母親と同じチームで初めて大会に出場させてもらいました。
友だちからは「フラッグフットボールって何?」と言われることもありましたが、自分にとっては身近な競技で楽しさも知っていたので、すごく特別感はありました。
ーそのまま中学時代もフラッグフットボールに打ち込んだのでしょうか?
中学校ではバスケットボール部に所属していたので、フラッグフットボールはオフの日に遊び感覚で続けていました。ただ、中学3年生の部活を引退したタイミングで、友だちに声をかけてフラッグフットボールのチームを立ち上げたんです。中高一貫校で受験勉強をする必要がなくて時間があったんですよね。最終的には全国大会で優勝することができました。
ー自ら立ち上げたチームで全国大会優勝はすごいですね。
中学女子のカテゴリーは全国に5、6チームしかなく、関西での2試合に勝ったらすぐに決勝という感じだったので(笑)。
カナダ留学から急遽帰国、人生を変えた日本代表との出会い
ー高校から大学時代にかけては、どのように過ごされたのでしょうか?
高校もバスケ部に入って、オフの日にフラッグフットボールをする生活でした。ボールをキャッチするスペースの見つけ方やディフェンスの仕方など、競技性が似ている部分もあったので、それぞれの経験を活かせていたと思います。卒業後は立命館大学へ進学をして、チアリーディング部に入りました。
ーなぜチアリーディング部に…?
強いチームで上を目指したい、という思いがあったんです。チアリーディング部の他に、バスケ部とフィールドホッケー部を見学して、チアリーディングなら初心者でも始められて上を目指せる環境が揃っていると感じました。小さい頃にダンスや器械体操を習っていたので全く経験がないわけではなかったのですが、思ったよりハードでした。
ー最終的にはフラッグフットボールを選んで現在に繋がると思うのですが、その経緯についても聞かせていただけますか?
まず、大学2年生でカナダに留学をしたんです。当時は英語があまり話せなかったので、スポーツを通じて友だちを作ろうと思い、フラッグフットボールのサークルに入りました。男女混合での試合が中心だったのですが、日本ではそうした機会は少なかったので楽しかったですね。カナダはカナディアンフットボール(※)が盛んだったので、フラッグフットボールをしている人も多かった印象です。
※カナダで主に行われている独自のフットボール
ただ、留学を始めて7ヶ月経ったくらいでコロナ禍に突入してしまい、急遽日本に帰国することになりました。諸々の活動制限が緩和されはじめたタイミングで、私と母親が所属していたチームに「フラッグフットボール女子日本代表のトライアウトを手伝ってほしい」と連絡があったんです。
私自身、そこで初めてフラッグフットボールに日本代表があることを知りました。母と一緒に手伝いに行った時に「自分もチャレンジできそうだな」と感じ、後日トライアウトを受けて日本代表として活動するようになりました。
会社員として働きながらチーム設立、プロ選手として目指す先は…
ー当初は会社員として働きながら競技を続けていたそうですが、仕事との両立についてはいかがでしたか?
週末の練習だけでなく平日も体を動かしたかったのですが、仕事とのバランスをコントロールするのは難しかったです。一方で、仕事終わりに体を動かすのは良いリフレッシュにもなっていたのかなとも思いますね。
ー社会人になってからも新たにチームを立ち上げられたのですよね。
既存のチームに入ることも考えましたが、全国で競技人口を増やしたり競争を高められたりできたら良いなと思い、『Blue Roses(ブルーローゼス)』を立ち上げました。
現在は、東京ヴェルディフラッグフットボールチームに吸収という形で生まれ変わっています。私自身も今は競技一本で活動をしていて、男女あわせて日本初のプロ契約をさせていただきました。
ー2028年のロサンゼルスオリンピックに向けて、どのような活動を考えていらっしゃいますか?
オリンピックで結果を残すことができれば、たくさんの人に競技を知ってもらう機会になると思っています。もちろんロサンゼルスでたくさんの人に応援してもらいたい気持ちもあるので、2028年までに認知を広めていくことも大事です。
個人としてSNSの発信に力を入れているのと、チームとしても他競技からの転向を受け入れられる体制を整えているところです。初心者の方でも一緒に成長していきたいと思っているので、まずは少しでもたくさんの人に知ってもらえるように努力しています。
ー実際に他競技から転向した選手も多いのでしょうか?
私と同じくバスケをやっていた選手もいますし、陸上競技をやっていた選手もいます。ワイドレシーバーは身⻑の高さやスピード、クオーターバックであれば肩の強さなど、ポジションごとに役割が違うので、他競技で培った能力を活かせるポジションが見つかるのではないかと思います。
ー海外の選手やチームと比べて、日本の強みはどういった部分にあると思いますか?
日本は小柄な選手が多いですが、そうしたフィジカル面で負けない戦略、戦術があると思います。海外のチームがやらないようなトリックプレーもありますし、フラッグフットボールの魅力が詰まっているので、ぜひ楽しんでもらいたいです。
ー最後に、今後の目標をお願いします。
ロサンゼルスオリンピックでの金メダルが目標です。そこに向けて私もチームメイトと共に成長していきたいと思います。他競技からの転向もお待ちしているので、ご連絡いただけると嬉しいです!