「女性だから、アスリートだから」と諦めないで。寺川綾と大滝麻未が示す道しるべ

<写真左:本人提供>

 

<本記事は、日本財団が運営するアスリートの社会貢献活動を推進するプロジェクト「HEROs」公式noteからの転載記事です。>

 

女性の社会進出や労働環境の改善が叫ばれるなか、仕事と出産・育児の両立に悩まされる女性は少なくありません。そんな悩みを抱える女性を後押しすべく、社会貢献活動に励むアスリートがいます。

ジェフユナイテッド市原・千葉レディース所属の大滝麻未(おおたき・あみ)選手は、社会貢献活動、そして子育てにも奮闘中。また、女子サッカーの普及、環境改善を目的とした『一般社団法人なでしこケア』を立ち上げています。

2012年ロンドンオリンピック100m背泳ぎ、および400mメドレーリレーで銅メダルを獲得した元競泳選手の寺川綾(てらかわ・あや)さんは、現役引退後に出産を経験。2児の母でありながら、報道番組のキャスターとして活躍しています。

キャリアにおいて、競技以外の活動にも積極的に取り組む2人は、アスリートの社会貢献活動を推進するHEROsの活動を共に盛り上げ、社会に「スポーツの力」を繋げるアスリートのコミュニティ『HEROsメンバー』の一員でもあります。

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現役選手として競技だけでなく、子育てや社会貢献活動にも取り組む大滝選手。そして、世界で活躍し、現役を退いた後でも活動の幅を広げ続ける寺川さんに、女性アスリートならではの苦悩や、競技だけではないアスリートのキャリア形成について伺いました。

 

「スポーツの楽しさ」を教える取り組みが大事

―まず、お二人がHEROsメンバーになったきっかけを教えていただけますか?

寺川:(日本財団から)お声がけいただいたことがきっかけです。その際、自分は『HEROsメンバー』として何ができるのかをすごく考えました。というのも、私は現役時代に自分の経験を周囲に伝える活動をしてこなかったんです。引退してキャスターとしていろいろなスポーツに携わらせていただくなかで、競泳選手として生きてきた経験を活かして皆さんの力になりたいと思い、参加させていただきました。


大滝:
私は、女子サッカー選手のキャリア構築や社会貢献活動のプラットフォームを作りたいと思い、2019年の夏に『一般社団法人なでしこケア』を立ち上げました。日本財団さんの支援もあって活動をすすめることができました。その縁もあり、「HEROsメンバーにならないか」というお話をいただきました。なでしこケアの活動を多くの人に届けたい思いもありますし、サッカーだけではなく、いろいろなスポーツへ輪を広げていきたいと考え、参加させていただきました。

 

―大滝選手が女子サッカー界の課題を認識したのは、いつ頃なのでしょうか?

大滝:2013年ごろですね。2011年のなでしこジャパンのW杯優勝を見ていて、「女子サッカーはこれから盛り上がっていくだろうな」と考えました。その後、私はフランスのオリンピック・リヨンというチームに加入が決まり、日本を離れました。

2年ほど日本の女子サッカーを見ない時期を過ごし、2013年に帰国したのですが、女子サッカーを取り巻く環境が全く変わっていなかったんです。「このままでは女子サッカーだけではなく、女子スポーツ全体が発展しないのでは」と危機感を持ちました。

ただ、危機感がありつつも、具体的にアクションを起こすことはなく、私は2016年、25歳の時にサッカー選手を引退しました。引退後もサッカーに関わり続けたいと考えていたので、どんな事ができるのか模索したんです。FIFAマスター(※)の勉強もしましたし、これをきっかけにアクションを起こそうと思い、現役復帰して、なでしこケアを設立しました。

※FIFAマスター:2000年に設立された、スポーツに関する歴史、マネジメント、社会学などについて学ぶ国際修士。大滝選手は2016年に入学し、2017年に修了。

 

―なでしこジャパンが2011年のワールドカップで優勝して以降、世間から結果を期待されるプレッシャーもあったと思います。寺川さんは、キャスターとして多くの選手にお話を聞くなかで、そういったプレッシャーをアスリートから感じることはありますか?

寺川:私は世界の頂点に立ったことがないので、トップであり続けることの難しさは、経験した人にしか分かりません。ですが、競泳に限らず、私の周りで世界のトップを経験した方々は、「勝ち続けなければいけない」というプレッシャーを感じていたと思います。

例えば、昨年の東京オリンピックで金メダルを獲得した侍ジャパンの皆さんを取材した時には、優勝したことで、勝負に対する価値観が180度変わったと感じました。頂点を目指して戦うのと、一度は頂点に立った勝者として戦うのでは、その重圧は全く違うものだと思います。当事者でなければ分からない苦労があると感じています。

 

―引退後の活動として、キャスター以外にはどういったものがありますか?

寺川:単発のレッスンで指導をしたり、小学校の体育の授業へ行くこともあります。選手への指導とは違った経験ができました。水に入ることすら嫌がっていた子を、私たちが抱っこをして、一緒にプールに入るんです。それから、壁につかまって自力で移動させる。水に対する恐怖心を克服するところからスタートします。

授業が終わる頃には、「楽しかった」と言ってくれる生徒がたくさんいました。子どもたちと一緒にスポーツの入り口に立って、そこから一歩を踏み出すお手伝いをできたのではないかと思います。競技人口を増やしたり、競技力を向上させたりするだけでなく、「スポーツの楽しさ」を教える取り組みも大事なんだと感じました。

 

―大滝さんは日々、女子サッカーの課題に向き合っていますよね。その中の一つに「普及」という面があると思います。中学生になるタイミングでサッカーを辞めてしまう子が多いという課題があります。

大滝:おっしゃる通り、受け皿が少ないことから、中学校に上がるタイミングで競技人口がガクッと落ちている事実があります。一度サッカーから離れて、そのまま辞めてしまう選手が多いことは、長い間、女子サッカー界の課題になっていますね。現役選手がアプローチするのは難しい部分もあり、模索する時間が続いていると感じます。

なでしこケアでは、中学生を対象にしたワークショップを開催したこともあります。ただ、初めて行なったイベントで、参加した中学生がセクハラ被害に遭ったことを聞きました。それを受けて、なでしこケアとして相談窓口を設置しました。ハラスメント問題は定義が難しく、子どもたちも分かっていないことが多い。女の子がサッカーを続けていくうえで、こうした問題に対応できる環境を整える必要もあると感じました。

 

―中学生向けのワークショップでは、具体的にどういったことをしているのでしょうか?

大滝:参加した選手全員がプロになるわけではないことを前提に、サッカーを今後のキャリアにどう生かすのかを話し合います。昨年までは単発のワークショップを開催していたのですが、今年は複数回に分けて実施しています。

1回目は、お互いを知ることから。2回目は、これまでのキャリアを振り返りながら言語化してもらい、3回目で将来について考えます。目標や夢を考えるだけでなく、実現のために明日から何をするのか、まで落とし込んで考えてもらっています。

大切にしているのは、選手が指導するのではなく、選手も中学生と一緒に学ぶこと。「こんなことまで考えていたのか」と驚かされることもありますし、私たちも良い気付きをもらえています。

 

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