「選手とファンの距離をもっと近くに」陸上・山中日菜美がありのままを発信する切実な理由

YouTubeやモデル活動を通して陸上競技の魅力を発信している、現役の陸上短距離選手の山中日菜美(やまなか・ひなみ)さん。

中学生で陸上競技を始め、数々の全国大会で入賞し、大学では全日本インカレでメダルを獲得。卒業後は実業団に進んで現役を続ける決断をしましたが、社会人として競技を続ける難しさに直面しています。

苦しさを感じながらも、さらなる成長を目指し環境を変えて、大学4年生以来4年ぶりの自己ベスト更新。社会人になっても現役トップアスリートとして活躍されている山中選手に、アスリートとして大切にされていることや身体との向き合い方、SNSで発信している思いを伺いました。

いい走りで自分にも周りにも喜びを

ー陸上競技を始めたきっかけを教えて下さい。

小学生の頃から走ることが好きで、鬼ごっこをしたり外で遊ぶことが多い子どもでした。体育の50m走でも男の子と勝負したり、体育祭のリレーも見せ場とまではいかないまでも足が速い方ではあったので、走ることが得意だとは感じていました。

中学に入り色々な部活を見学したのですが、陸上部が楽しくて、しっくりきたんです。その時の恩師が有名な方だったので、そこも良かったのかもしれません。

ー学生生活を終えても陸上を続けられていますが、陸上競技にのめり込むことになったきっかけはありますか?

やはり自己ベストを出したときはとても嬉しく、陸上をやってきて良かったなと感じています。

毎回タイムが出るわけではないですし、練習がきついときも多いです。でも振り返ると、思い浮かぶのは辛いときではなく、自分や仲間が笑っている姿なんです。結果で周りの人にも恩返ししたい、そして自分の競技を見て喜んでほしいという思いで続けています。

ーどういったところに陸上の魅力を感じていますか?

陸上はタイムという分かりやすい指標があるので、どういう動きが良い結果に繋がるのかと原因を分析できる点に魅力を感じています。

100mという短距離でも常に同じ走りをしているわけではなく、序盤・中盤・終盤と区間に分けて走りの組み立てを行っています。

その中盤に当たる「二次加速」、つまりトップスピードに乗るための加速がすごく難しいんです。どうすれば難しい部分を克服できるのか、自分で考えながら練習していくのがすごく楽しいですね。

学生の頃は必死に走っていただけでしたが、社会人になって陸上競技をテクニックからもより深く考えられるようになりました。出来ないことができるようになって、成長を感じる瞬間は嬉しくて幸せです。

ー思い出に残ってる試合はありますか?

大学時代の全日本インカレですね。100m、200mとリレー2種目の計4種目に出場し、4種目ともメダル獲得、入賞を果たせたことが印象に残っています。

もうひとつは、4年ぶりに自己ベストを更新した大会です。大学を卒業してから昨年までの4年間、自己ベストが出ていなくてすごく苦しかったんです。このままじゃ終われないという覚悟から、もう一度自分を見つめ直して、自己ベストを更新することができました。その試合もすごく嬉しかったですね。

辛い時は誰かに相談して前向きに

ー自己ベストを更新するまでの道のりは、すごく苦しかったと思います。

練習をしていて、どんどん負の連鎖にはまっている感覚がありました。

いつの間にか自分の良いところが見えなくなって、「まだ頑張れるのかな」と自分を信じられない時が辛かったです。周りの人は「まだ出来る」と信じてくれて、自分もそう思いたいけど…。と気持ちの整理がつかない時が辛かったですね。

あとは孤独感も感じていました。社会人になると陸上を辞めてしまう人が増えます。悩みを相談できる機会も減りました。そのような状況でも勇気を出して周囲の人に相談して吐き出すようにしましたね。

ーどのような方にご相談されていましたか?

一緒に陸上をしている友達だったり、中学時代の陸上部の友達だったり。あとは母に相談しています。以前は、相談できなかったんですけど、最近はなんでも話せるようになりました。母に話すと、気持ちが前向きになる言葉をかけてくれます。

ーお母様に相談できるようになったきっかけをお聞かせください。

話すと泣いちゃうんですけど…(笑)。社会人になって初めて1人暮らしをして、親のありがたみを理解していなかったことに気がつきました。私は母子家庭なのですが、迷惑をかけたくない気持ちが強く、元気にやってる姿を見せたいと思っていたので悩みは話してこなかったんです。

でも1人暮らしをすると、家事も掃除もしないといけない上に、稼ぐことの大変さも知りました。母親が、ここまで1人で育ててくれたのがすごいことだなと…。それまでは父親がいないことにネガティブなイメージを持っていましたが、私を1人で育ててくれた母親の強さを初めて知りました。

以前は強がったりしていたんですが、今は強がらずに弱音も吐くようになりました。忙しいのに応援にも来てくれるので、本当にありがたいです。母の偉大さにやっと気づくことができました。

ー悩みを抱え込まないようになって、競技で変わったことはありますか?

試合であまり記録がよくなかったりすると、凹む時間が長かったり上手く切り替えができなかったんですけど、相談し始めてからは早めに解決出来るようになりました。励ましてもらえると、頑張るしかないと思えてまた前に進むことができます。

練習でも試合のような緊張感を持って

ー試合で結果を残すために、意識していることはありますか?

練習から緊張感を持って取り組むことが、パフォーマンスアップに繋がると思っています。どういう部分を意識するかを考えて練習することが、試合と同じ緊張感を持てる方法です。

ー緊張していると感じた時の対策を教えてください。

周りの人に「緊張してる!」って言います(笑)。コーチからは「いつもやん(笑)」って返事が来た時に、そうなのかと客観視できて緊張している自分を素直に受け入れるようにしています。

緊張することは悪くはないと思っていて、それを受け止めることが大事だなと競技を続けていて感じています。

ー学生から社会人になった時に体やメンタル面で変化を感じましたか?

短距離を一本走るだけで息が上がる私に対し、学生はすぐに次の練習を始めるんです。それを見て、体力の回復が遅くなったと感じています。

あとは痩せにくくなりましたね。怪我をしてしばらく運動できなかったのですが、練習再開後も体重が落ちるのが遅いと感じるようになりました。

ーリカバリーで大事にしていることはありますか?

練習後の疲れを残さないようにしています。しっかり栄養を摂るようにしたり、睡眠をたっぷり取るようにしたり。私は寝るのが好きなので、リラックスやリフレッシュのためにも睡眠時間の確保はかかせません。

また栄養面では、本を読んで勉強したり栄養士さんにアドバイスをもらったりして、体が回復する食事を意識しています。

選手とファンの距離をもっと近く

ーSNSで積極的に発信されるようになったきっかけを教えて下さい。

陸上競技をしている中で、応援して下さる方との距離を感じていました。応援してくれる方との距離を縮めたい、そして陸上を知ってもらいたいという思いでSNSの発信を始めたんです。

SNSでコメントしてくださったり、実際に試合にも来てくださったりと、皆さんの応援が力になっています。

ー発信する上で、意識されていることはありますか?

アスリートとしての自分を知ってもらえるように意識しています。選手によると思いますが、私は近くに感じてもらいたいですし、応援して下さっている方と一緒に喜びを分かち合いたいと思っています。

私の場合は陸上だけでなく、モデルやYouTuberとしても活動しているので、色々な姿を見せることで皆さんの刺激になればいいなと思っています。自分の活動がきっかけになって、いろんな選択肢があるんだと前向きになってもらえたら嬉しいです。

ただ自分らしさを発信しようと気持ちを込めて文章を書くと、真面目で堅苦しい感じが出てしまうんです(笑)。文章を投稿する際は穏やかな言い回しを心掛けています。

またYouTubeのメンバーシップでは、ありのままの自分をさらけ出しています。嬉しいだけじゃない、悔しい思いなどありのままを話して自分を表現しています。

ーSNSでの発信をやっていて良かったと感じていますか?

ありのままの自分を知ってもらうことができたので、発信して良かったと思っています。話している姿を発信すると、「こんな人だったんだ」「こんなに明るいんだ」とよく言っていただけます。

他にも、ファンの方々の声援が私のもとに届きやすくなったとも感じています。それが重荷になる場合もあると思いますが、私にとってはプラスに働いていますね。

ー最後に、今後の目標を教えて下さい。

陸上競技に関しては、まずは100mも200mも自己ベストを更新することが目標です。まだ日本選手権の決勝に残れたことがないので、しっかり勝負できる速くて強い選手になっていきたいと思います。

今は陸上のおかげで人生が充実しているのですが、まだまだやりたいことはたくさんあります。今後は起業して自社ブランドを立ち上げたり、アパレルや美容関連の事業にも挑戦してみたいと思います。

ー応援しています。ありがとうございました!

RELATED

PICK UP

NEW