「痛みを弱さで片付けないで」元女子バレーボール日本代表・大山加奈が、いま若手アスリートに伝えたいこと【PR】

元女子バレーボール日本代表として、パワフルなスパイクで多くのファンを魅了した大山加奈さん。しかしその輝かしいキャリアは、小学生時代から続く腰の痛みによって、常に「最高のコンディション」を阻まれてきた歴史でもありました。「自分の無知さと、我慢してきたことを後悔している」。彼女をそう語らせるほどの経験とは、どのようなものだったのでしょうか。

痛みに蓋をし続けた過去から何を学び、どのようにして自身の身体と向き合うようになったのか。彼女がたどり着いたコンディショニングへの哲学と、長く競技を続けるためのヒントについて、じっくりとお話を伺いました。

「まだ耐えられる」痛みをごまかし続けた学生時代

ーこれまでの現役生活で、数多くのケガをご経験されてきたかと思いますが、その中でも、大山さんの競技人生に最も大きな影響を与えたケガについて教えてください。

やはり一番は腰のケガ(脊柱管狭窄症)です。痛み自体は小学生の頃からずっとあって…。その頃から日常的に「腰が痛いなあ、だるいなあ」という違和感があり、ずっと痛みをごまかしながらプレーしてきました。振り返ってみると、常に腰の痛みに悩まされてきた競技人生だったように思います。

ーつまり中高時代もその痛みが続いていたんですね。

はい。中高時代も騙し騙しやっていたので、腰の痛みは相変わらずでした。それに加えて、中学時代は試合中に疲労骨折をしたり、高校時代も慢性的な足の痛みに悩まされたり。足に関しては、次第に日常生活でも痛みを感じるようになっていました。

ーそのような中、学生時代はどのように痛みと向き合っていたのでしょうか?

「まだ耐えられる」と思って、何もしないまま放置していました。痛みが強いときだけトレーナーさんに相談して、テープを貼ってもらう。その場しのぎの対応ばかりで、本質的なケアは全くできていなかったです。

ーそれほどまでに大きな痛みを抱えながらプレーを続けられた理由はどこにあるのでしょうか?

母校である成徳学園高校(現・下北沢成徳高校)の環境に、本当に助けられたと思います。当時の部活としては珍しく、選手のコンディションを最優先に考えるチームで、「強豪校=練習量が多い」という常識とは真逆の「量より質」という方針が徹底されていました。

例えば、選手それぞれの状態に合わせて練習の強度を調整してくれたり、痛みを抱える私のような選手には個別のケアメニューを用意してくれたり。当時は、日本代表やアンダーカテゴリーの合宿、大会などが続き、まとまった休みはほとんど取れない日々でしたが、母校の環境のおかげでなんとか日々の練習に向き合うことができました。逆にこの環境でなければ、私の腰はきっと持たなかったと思います。 

ベストを出せないもどかしさ。痛みがメンタルにも影響

ー「その場しのぎ」の状況に、転機が訪れたのはいつでしたか?

社会人チームへの入団が大きな転機になりました。自分の症状についてトレーナーさんに相談したところ「MRIを撮ろう」と言われて。その結果、初めて「ヘルニア」と診断されました。さらに驚いたのは、高校から続いていた足の痛みも、実は腰が原因だったと判明したこと。別々の問題だと思っていたのに、全部つながっていたんです。

ーその事実を知った時、率直にどう感じましたか?

ただただ、自分の無知を後悔しました。もっと早く専門家に相談していれば…と何度も思いましたね。情報が少なかったとはいえ、自分の身体にきちんと向き合うことを怠っていたなと。

ー痛みは、プレーやメンタルにも影響があったのでしょうか?

何よりも、ベストを出せないことへのもどかしさが常にありました。「この痛みさえなければ…」と何度思ったか分かりません。それに腰の痛みで視線が下がると、気持ちまで沈むんです。身体の向きが心にも影響するって、本当にあるんだなと。でも手術を受けて、顔を上げられるようになると、気持ちも軽くなって。それで姿勢一つでこんなにも変わるんだ、と個人的にはかなり驚きました。

身体に向き合いはじめて知った「クールダウン」の重要性

ー身体に対する意識が変わったのはいつ頃からですか?

ケガで戦線離脱し、リハビリを経験した23〜24歳くらいからですね。その時期から自分の身体に矢印が向くようになり、トレーニングの質が上がっていったなと。その日の調子を確認して、ちゃんとケアをしてから試合に臨むようになりました。

ー意識の変化を経て、学生時代に「もっとこうしておけば良かった…」と思うことはありますか?

もっと練習後のケアに力を入れていればよかったです。ウォーミングアップにはかなり時間を割いていたんですが、クールダウンの方はそうでもなかったなと。その後悔があるからこそ、今の選手たちにはぜひその意識を持ってもらえたらと思います。

また、指導者の方々にも、チームとしてケアの時間を確保するか、それが難しい場合は自宅でのセルフケアの重要性を説くか、いずれかの形で選手たちをケガから守っていただきたいですね。

ーちなみに、テーピングはいつ頃から使っていたのですか?

実は、小学生の頃から使っていました。当時はチームにトレーナーさんがいなかったので、接骨院で貼ってもらったり、親が独学で調べて貼ってくれたり。冬の体育館は寒くて乾燥するので、指がパックリ割れてしまうのを防ぐために巻いたこともありましたし、当時、「ジャンプ力が上がる」っていうテープが流行っていて、半分おまじない感覚で使っていたこともありました(笑)。


未来の話は響かない?若い世代の選手たちにケアの大切さをどう伝えるか

 ー学生年代の選手たちに、ケアの重要性をどう伝えていくべきでしょうか?

伝え方は難しいですよね。ただ「ケアしなさい」と言っても、なかなか自分事として捉えられないのが、この年代の難しいところだと思います。やっぱり学生の頃って無理がきくし、疲れてもあまり自覚がない。「寝れば回復する」と信じているので、どうしてもケアの重要性を実感しづらいんですよね。

だからこそ、「未来のために」ではなく、「明日のパフォーマンスが変わるよ」「この試合で勝ちたいなら、今日ケアしておこう」といった、もっと身近な目標に結びつけて伝えることが大事だと思います。その方がきっと、本人たちにも届きやすいですし、ケアを前向きな習慣として捉えてもらえるんじゃないでしょうか。

 ー最近の若年層の選手たちの身体の変化や、ケガの傾向について、どのように感じていますか?

ここ数年、小中学生といった本当に若い年代で、大きなケガをする子が増えているように感じます。小学生で腰の分離症を発症したり、中学生で前十字靭帯の手術を受けたり…。そうした話を聞くたびに、胸が痛みます。

もちろん原因はひとつではないと思いますが、私としては、やはりコロナ禍の影響が大きかったのではないかなと。あの時期、思うように身体を動かせなかったことで、子どもたちの身体づくりの土台が、いわば一時停止してしまった。その状態で、いきなりレベルの高い練習に戻れば、身体がついてこないのは当然です。

だからこそ、今の子どもたちの身体の状態を正しく理解し、それに合わせた指導へと柔軟にアップデートしていく姿勢が大切です。これまでの常識や経験だけに頼るのではなく、目の前にいる選手たちにとって何が本当に必要なのか。それを改めて問い直していくことが、いまの私たち大人の役割だと考えています。

ーでは指導者や選手は、まず何から始めれば良いのでしょうか?

選手自身の感じ方を「見える化」することが大事だと思います。たとえば、疲労度を5段階で記録するだけでも、指導者は選手のコンディションをより正確に把握しやすくなります。

私自身も社会人時代、腕の可動域などを毎日チェックしていて、自分の疲労度を客観的に知ることができました。たった5分、10分でできることですが、この小さな積み重ねが、コンディションを保つうえでの大きな土台になります。

ただし、いくら「見える化」しても、選手がそれを正直に伝えられなければ意味がありません。痛みを「弱さ」と捉えずに話せる空気や信頼関係を築くこと。その土壌があって初めて、こうした取り組みが本当の意味で効果を持つのだと思います。

自分だけの「最高のコンディション」を見つけるためにすべきこと

ーいま競技に打ち込んでいる若い選手たちへ、一番伝えたいことは何ですか?

「自己判断しないこと」「周りの力を借りること」。この二つですね。もし痛みを感じたら、「これくらい大丈夫」と我慢するのではなく、専門家に見てもらう。その一歩が本当に重要です。

ただスポーツ界には、痛みを「弱さ」や「メンタルの問題」で片付けてしまう風潮が、残念ながらまだあります。でも、痛みは身体からの純粋なSOS。弱さとはまったく別のものだということを、私も長い時間をかけて学びました。そのことを、若い皆さんには知っておいてほしいです。

ー最後に、この記事を読んでいる皆さんへメッセージをお願いします。

ケアやコンディショニングは、「面倒な義務」ではなく、自分の力を引き出すための大切な時間だと思ってもらえたら嬉しいです。身体と向き合いながら少しずつ変化を感じていく時間には、前向きな発見があります。

「痛みなくプレーできる」ことは、競技を続けるうえでの大きなヒントになるはず。そこを目指していく中で、「意味があるかどうか」ではなく、まずは気になったことを試してみる。トレーニングや食事、睡眠、テーピングなど、身近なところにヒントはたくさんあります。

完璧じゃなくても大丈夫です。少しずつ、自分に合う方法を見つけていってください。その積み重ねが、きっとあなたの「最高のコンディション」につながっていくはずです。皆さんの挑戦が、もっと自由で、もっと楽しいものになりますように。これからの毎日を、心から応援しています。

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