女子選手の身体を知り、向き合う。なでしこジャパンスタッフが乳がん勉強会を実施

2022年10月18日、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)スタッフが参加する乳がん勉強会がオンラインにて開催されました。

JFA(公益財団法人 日本サッカー協会)はピンクリボン運動の啓発を目的として、2019 年より「ピンクリボン月間」とされている10月に、様々な活動に取り組んでいます。 その一環として、今回は乳がんに対する男性の理解促進や、乳がんをきっかけとした女性の健康に対する理解を深める機会として行なわれました。

前半は聖路加国際病院 乳腺外科 医長の吉田敦先生による乳がん勉強会、後半は女子選手指導においてケアするべきポイントなどについてディスカッションを実施。トップレベルの現場を指導しているスタッフからは、活発な意見交換や質問が飛び交いました。

【参加したなでしこジャパンスタッフ】
池田太 監督、宮本ともみコーチ、西入俊浩 GKコーチ、大塚慶輔 フィジカルコーチ

 

女性罹患率1位のがんについて、正しく知る

前半は、吉田敦 先生(聖路加国際病院 乳腺外科 医長) による乳がん勉強会が行なわれました。一部抜粋して、内容をお届けします。

吉田先生:まず、乳がんについて皆さんはどのくらい知っていますか?

池田監督:女性のがん死亡率の中では4位、5位に入ってくるものですよね。(※2020年時点で4位)早期発見が大事など、よく聞かれることくらいしか情報はわかっていません。ここまでは予習してきました。

宮本コーチ:自分の周りでも乳がんになった方がいらっしゃたりして、30歳を過ぎた頃から定期的に検診を受けています。がんの中では身近に感じていますね。

 

吉田先生:ありがとうございます。それではここから、そもそも乳がんとはどのような病気なのか、基本的な知識をお伝えしていきます。

①がんというのは何でしょうか?

池田監督:正常じゃない細胞の集まり、ですかね。

吉田先生:一言でいうと一種の悪性腫瘍、遺伝子のエラーを起こして「死なない細胞」です。身体の中と外の境界部分にできるものなのです。胃、大腸、乳房もそうですが、“通り道”にできるものなんですよね。乳房はミルクを作る臓器で、乳管が通っています。

 

②乳がんってどれくらいの人がかかるのでしょうか?

西入コーチ:30%程度でしょうか?

吉田先生:女性では罹患率は1位、死亡率は4位となっています(※2020年のデータより)。毎年日本では、約10万人程度が罹患されていて、40代以降の女性に多くなっています。

 

③乳がん検診は何のためにした方が良いのでしょうか?

大塚コーチ:異常を早く察知するため、です。

吉田先生:そうなんです、できれば早期発見したいということですよね。死亡率の低下には有効だといえます。

一方で、若い女性が受けると検査で見つかりにくいというのもあります。また、検査の不利益も多少あり、「がんの可能性がある」と伝えられる精神的な負担にも繋がります。ご自身の生活習慣や家族に罹患歴のある方がいらっしゃるかも踏まえて、決めていただきたいです。

 

④「ブレスト・アウェアネス(breast awareness)」とは?

宮本コーチ:聞いたことがありません。

吉田先生:乳房を意識する生活習慣のことです。乳房の痛みがないか、以前と比べて違和感がないかなど、体の変化を気にしながら生活をすることが大切だという考え方になります。何か変化に気づいたら、すぐに医師に相談していただきたいです。これと、罹患者数が増える40代以降に2年に1回乳がん検診を受ける、というのでかなりの場合は早期発見に繋げられると思います。
乳がんセルフチェックのポイントはこちら

 

なでしこジャパン“チーム”として、女子選手の課題と向き合っていく

講義のあとは、質疑応答が実施されました。なでしこジャパンスタッフの方々から、積極的に質問が飛び交いました。

 

池田監督:乳がんの現状と正しい知識について知ることができて、良い機会になりました。質問なのですが、乳がんの予防についてはどのような見解があるのでしょうか?

吉田先生:これをやっていたらならない、とは一概には言えません。ただひとつ言えるのは、太らないことですね。太らないための生活習慣が大切になります。あとは、喫煙・飲酒も乳がんのリスクを上げることがわかっています。

 

ー宮本コーチは、現役時代に悩んだ健康面での出来事はありますか?

宮本コーチ:女性特有なものでいうと、私自身はそこまでひどくなかったのですが、生理痛や子宮内膜症で悩む選手を見てきました。産後復帰も経験しましたが、まだ授乳をしている段階で復帰したので、カルシウムが不足してしまい恥骨の疲労骨折を起こしました。最近ではさまざまな前例がサッカー界でも増えてきました。私自身も含めて、伝えられることは伝えていければと思いますね。
以前、B&では宮本コーチの産後復帰時の経験や思いを取材しています!

 

ー大塚コーチ、西入コーチは、それぞれ女子指導に当たって改めて感じていることはありますか?

大塚コーチ:もともと男子のフィジカルコーチでしたが、昨年から女子を担当させていただいています。エネルギー不足からくる運動性無月経や骨粗鬆症は、想像以上に深刻であることがわかりました。男性の指導者がこうした事情を理解することはかなり重要だと思います。特にサッカーの場合、中学生まで男子とプレーする女子選手が多いです。本人と指導者、保護者全員がきちんと理解して、対応していく必要性があると感じています。

西入コーチ:大塚コーチと同じで、指導者として、女性の身体のことや仕組みを理解することが重要だと思っています。育成年代での生理や貧血などに加えて、トップチームの乳がんなどと、年代に応じてアプローチすることも重要かなと。選手と指導者間で情報を共有して、一緒に向き合っていくことが大切だと思っています。

池田監督:女性特有の身体の不調からくるものも含めて、選手の変化には敏感に気づくように意識しています。スタッフの配置でいうと、女性のコーチやメディカルスタッフが、選手が相談しやすい環境や雰囲気づくりに一役買ってくれています。宮本コーチが細かいケアをしてくれたり、協力しながらコミュニケーションを取れていると思います。

 

男性指導者も含めて女子アスリートの身体と向き合い、チームとしてベストなパフォーマンスを発揮するために取り組んでいることが伝わってくるイベントでした。11月にはイングランド、スペインとも国際親善試合を控えています。活躍を期待しています!

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