大切なのは、オープンに話せる関係性。競泳日本代表コーチ 草薙健太×元競泳日本代表 竹村幸

2022年6月29日、オンラインイベント「アスリート×生理TALK VOL.1 指導者と向き合う生理 競泳編」を実施しました。今回のゲストは、競泳元日本代表・竹村幸さんと、現競泳日本代表コーチであり中京大学競技スポーツ科学科 准教授・同大水泳部コーチの草薙健太さん。

女性アスリートを指導する中で、選手の生理とはどのように向き合うべきなのか。現役時代の竹村さんご自身の経験も踏まえながら、指導者も生理と「向き合う」重要性について、お話しいただきました。

 

意識を失うことも。生理が、競技に集中できない一因だった

ー竹村さんご自身も生理痛が辛かったそうですね。

竹村:高校のインターハイが印象に残っています。生理が被ってしまい、一番症状が重い生理3日目にレースがありました。当時はピルを飲んでいなかったので、辛かったですね。

レース中はアドレナリンが出るのであまり痛みは感じません。でも表彰式の直前、ホッとした瞬間に痛みと血が一気に来てしまって。そのまま気を失ったのを覚えています。

大学の全国大会でも、生理3日目にちょうど被ってしまったことがありました。私はぎっくり腰になりやすいのですが、生理中は余計に腰が痛くなるんです。その日は予選を通過したあとぎっくり腰になってしまい、決勝は泳げましたが次の日のレースは棄権しましたね。

 

ー最もパフォーマンスが求められる試合日の生理で、悩まされるアスリートも多いと思います。竹村さんはどのように対応されていたのでしょうか?

竹村:大学卒業前から、どんどん生理痛がひどくなっていったので、ピルを飲んで試合に被らないようにしていました。でも副作用で、生理痛が激しくなってしまい、意識を失ったことがありました。その辺りから生理との向き合い方について悩むようになり、精神的にも落ち込みやすくなりました。

寝る時にふと、「死にたいな」と思うようになってしまうこともあったほどです。チームメイトに話をしたら、「それは普通ではないと思うよ」と言ってくれて、初めて精神科に行きました。そこで初めて、生理が原因であることに気づきました。

その後、婦人科に行って、PMS(月経前症候群)と診断されました。そこからはピルを飲んだり、PMSとどう向き合いながら競技を続けていくのかを考えて行きました。

 

「質問力」と「話し合い」の重要性

ー草薙さんは、女子選手の生理とどのように向き合うように意識されていますか?

草薙:入学してきた女子選手を対象に、個別で生理についてヒアリングを実施しています。選手一人ひとりの状態を把握して、気になることがあれば「婦人科の方に行ってみよう」と話をします。

生理と向き合いながら、調整しながら水泳に取り組むことが大切だと思っています。生理と向き合う姿勢を見せることで、選手から「今回はしんどいです」と話してくれるようになりました。

水泳が全てではありませんし、それ以外の生活も大切です。指導者側の勝手な判断にはならないようにしています。

「大丈夫って言われたから、大丈夫」ではないかなと。なるべく選手の本音を聞き出せるように選手とコミュニケーションをとるようにしています。

 

ー聞き方ひとつで、答える側の反応も変わってきますよね。指導者から聞かれて嫌だなと感じる選手もいるのでしょうか?

竹村:高校生など、思春期の子は嫌だなって思うかもしれません。慣れもあると思うので、言い方を工夫することが重要だと思います。隠すよりも状況をちゃんと指導者に伝えた方がいいと思うので、少しずつ、お互いに理解していくべきだと思います。

自分から伝えても、一緒に話し合うことはなく、「休むかやるか」の二択で終わることもありました。私のコーチはかなり親身に聞いてくださったので、自分の体調に合わせて練習を取り組むことができました。

指導者と上手くコミュニケーションがとれていない時は、できない自分が悔しいし、悲しいし、辛かったです。頑張っている人がいる中で、自分が練習できないことが不安でした。でも、話し合いをして自分ができることを納得してやるようになってからは、自分を責める時間はなくなりましたね。

 

痛みを数値化することが、納得いく判断に繋がる

ーでは、具体的にどのようなコミュニケーションを取っていくのがいいのでしょうか?

草薙:僕が心掛けているのは、日頃から数値化してみることです。頭痛や腹痛で、前と比べた時に「痛さ」と「できる度合い」は何%くらいかと問いかけて、本人の感じ方を把握するようにしています。

竹村:生理でしんどい時は、感情的になっている部分もあるので、痛みを数値化することで冷静になれますね。

あと具体的な声かけでいうと、「無理しないで」という言葉がトラウマでした。相談をして話し合いたいと思っているのに、突き放された感じがしてしまって。ぜひ指導者の方には知っておいてもらいたいと思います。

心配の一言だとすごくいい言葉だと思いますが、相談を投げかけた時の「無理しないで」は本当に辛かったですね。

 

「プールサイドに血が…」

ーこれは水泳あるあるだと。草薙さんも指導者としてこのような場面に出くわすあると思いますが、どのように対処していますか?

草薙:周りの人にはわからないように流してあげるのはもちろん、本人に「大丈夫か」と問いかけてあげるのが重要だと思います。なかったことにするのではなく、しっかりコミュニケーションをとっていただきたいですね。

竹村:私が練習が終わって歩いていたら、後ろに血が大量についていたことがあったんです。その時先生が「おい幸!血がすごいぞ、生理大丈夫か!」と言いながらバケツでプールサイドを綺麗にしてくださっていました。それくらいフランクに言ってくださると話しやすいなと思いました。実は鼻血だったのですが…(笑)。声をかけてもらった方が安心する選手も多いと思います。

指導者がいかに生理を正しく理解し、アスリートと向き合うか。選手とのコミュニケーションを大切にしながら、生理も踏まえた調整や指導が広がって欲しいです。

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