「かっこよくなくていい」競泳のエース・難波実夢のマイルール

21年ぶりに福岡で開催される世界選手権2023に競泳自由形・長距離日本代表として出場する難波 実夢(なんば・みゆ)さん。

2019年日本選手権で初優勝し、400m自由形と800m自由形で二冠を達成。現役高校生で日本代表入りを果たしました。その後次々と高校記録を塗り替え、幼少期からの夢であった東京五輪に出場。世界短水路選手権では、競泳界最古の日本記録を塗り替えて銅メダルを獲得しました。

順風満帆に見える彼女の競技成績ですが、幼少期から憧れていた日本代表のイメージと自分とのギャップを感じているとのこと。悩みながらも自分らしく世界で戦おうとする彼女の思いを伺いました。

ルールを決めて、緊張している自分を騙す

ー夢だった五輪出場が叶い、レースに出場した時の心境はいかがでしたか?

実は五輪のレースのことは、あまり覚えていないんです。緊張しすぎて気がついたら終わっていた、というか……出場することがゴールになってしまっていて目標を見失い、周りの雰囲気にのまれてしまいました。

でも振り返ると、そんな緊張感のある場所に立つ経験もなかなか無いので、楽しかったなとも思います。

ー覚えていないんですね。よく試合では緊張しますか?

いつも緊張しています(笑)。東京五輪出場を決める大会では、今までにない緊張感に襲われて全然眠れなかったです。すごく動揺しました。

ただ、大学の監督で競泳五輪メダリストの山本貴司さんが、「一日ぐらい眠れなくても大丈夫」と声をかけてくださり、気持ちを落ち着かせて自分のレースをすることができました。

ーコンスタントに代表入りするようになり、精神的な変化はありましたか?

今は「勝ち続ける」難しさに直面しています。最初に日本選手権で優勝したときは、先輩を追いかけるチャレンジャーでした。プレッシャーも感じていなかったので精神的に楽だったのですが、一度優勝したことによって負けられないというプレッシャーを感じるようになりました。

ー日本代表に入り続けることで、新たなプレッシャーを感じるようになったのですね。乗り越えるために工夫していることはありますか?

入場前の過ごし方を大事にしています。緊張のしすぎは結果に繋がらないと五輪を通して経験しているので、「どんなに余裕がなくても、笑顔で余裕があるように行動する」とコーチと決めています。本心は余裕はありませんが、まずは行動から変えることが大事なのかなと。自分を騙すように笑顔でレースに入場することが、私のルールです。

伝えないことも、コミュニケーションの一つ

ーここまでの競技生活は順風満帆ですね。

「いつも調子がいいね」って言われますが、そんなことはありません。高校生までは考えなくてもタイムが速くなりましたが、大学生になるとそんなうまくいかなくなって。

水泳は練習でもタイムを計測するので、いつでも調子が数値化されます。指導者も選手もわかりやすくて良い部分はありますが、調子が悪い時も明確になるので精神的に追い打ちをかけられるときもあります。周りから調子が良いと見えていることはありがたいですが、最近は悩むことばかりです。

ー悩みながら日々努力されているのですね。悩んだ時は指導者に相談していますか?

全ては話さず、選別して伝えるようにしています。年齢も性別も違うので、自分が思っていることをそのまま伝えられる自信がないんです。良い距離感でいることが、負担にならないコミュニケーションの一つです。

あとは、プールから離れたときに上手く気持ちを切り替えて楽しむようにしています。例えば、学校で授業を受けている間は水泳のことを考えなくなりますし、違う世界を持っていることも、競技に集中するための一つの手段ですね。

ー気分転換は大事ですよね。水泳以外にも何か取り組んでみたいことはありますか?

英語を話せるようになりたいなと思っています。五輪のときに海外の選手と話せなくて、私だけ取り残されているように感じたので、これはまずいなと(笑)。もっとコミュニケーションが取れるようになれば、競技にも良い影響が出るのかなと思います。

今までの自分を裏切らないために

ー7月には世界選手権2023福岡大会が開催されますね。大会での目標を教えてください。

今年の世界選手権では、個人種目で決勝に進出してベストタイムを出すことが目標です。来年のパリ五輪に向けて、良い流れを作っていきたいなと。

昨年12月の短水路世界選手権では、初めてメダルを獲得できました。自己ベストも更新して自信をつけることができたので、夏の世界大会でもメダルに近づけるように挑戦していきたいです。

ーなかなか日本は長距離の自由形で世界と戦えていない状況が続いていました。その中で世界と戦おうとする難波選手はとてもかっこいいですね。

私自身かっこいい選手ではありません。私が小さい時に思い描いていた日本代表選手は、もっと悩まずに堂々としているイメージがありましたが、自分がその立場になると全然そんなことないなと(笑)。

でも、できない言い訳を作ってしまうと、ここまで頑張ってきた自分に申し訳ないなと思うんです。かっこいい選手とは言い切れませんが、どんなに悩んでも、今やれるだけのことはやろうと覚悟を決めて試合に臨んでいます。

ー応援しています!最後に女子アスリートへ、メッセージをお願いします。

「アスリートはカッコいい」という理想像があるかもしれませんが、私はそうではなくてもいいのかなと思っています。悩んで、失敗して、落ち込んでも、自分のやり方で目標を達成することが何よりも大切です。ここまで頑張ってきた自分のためにも、一緒に目標達成に向けて進んでいきましょう!

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