鈴木聡美(競泳女子)が、5年ぶり代表復帰を果たすまで

2023年4月に開催された日本選手権で優勝し、5年ぶりの日本代表復帰を果たした鈴木聡美(すずき・さとみ)さん。7月の世界水泳には、女子の代表選手で最年長として挑みます。

2012年のロンドン五輪では、メダル圏外からの大逆転で銀メダルを獲得。世界大会で数々の功績を残し、日本水泳界を牽引してきましたが、ここ数年は調子が上がらず日本代表から離れていました。

長く競技を続けることで変わっていく状況、そしてコロナ禍をきっかけにコミュニケーションの大切さに気がつき、人との向き合い方を大きく変えることになりました。この変化が鈴木さんにもたらしたものとは。日本代表として一緒に戦ってきた鈴木さんの胸の内を伺いました。

(聞き手・文 競泳元日本代表 竹村幸)

苦しさを乗り越えて、5年ぶりの代表復帰

ー5年ぶりの代表復帰を果たされましたね。おめでとうございます!今の思いをお聞かせください。

ありがとうございます!代表を離れる期間が長かったので、ようやく戻ってこれてほっとしました。日本選手権では久しぶりに自信を持ってレースができて、ベスト記録も5年ぶりに更新できました。スランプを抜け出せたことも、よかったと感じています。

ーここまでの道のりは、大変だったことの方が多かったと思います。

ここ数年は調子が上がらず、試合後に泣きながら練習拠点の山梨に帰ることもありました。「何が何でも代表権を獲得したい」という強い思いがあったので、悩みましたね。5年という期間は、私にはすごく長かったです。

でも、引退を考えることはほとんどなかったです。「私はもっと出来る」と思っていたので、記録が出ない原因を追求するようにしていました。引退するまでに、高速水着時代(※)に出した自分のタイムは超えたいなと思っています。

※2009年に発売された、従来の生地とは違った新しい水着で姿勢を矯正する効果があったもの。新記録を出す選手が続出したことで2010年には禁止に。

ー日本代表に入れなかった5年という月日は、すごく長く感じたと思います。調子が好転したきっかけはありましたか?

昨年末から、年齢への固定概念を捨てたんです。あえて厳しい練習計画を立てて、やり通す覚悟を持ちました。

はじめは本当にしんどくて、嫌で嫌で仕方なかったのですが、トレーナーやコーチに励ましてもらいながらその強度に慣れていきました。すると格段に泳ぎがよくなり、記録が伸びはじめて自信がついてきたんです。

覚悟を決めても、一人ではやり通すことは難しかったと思います。周りのサポートには心から感謝しています。

人と比べてしまう自分を克服

ー長く競技を続けてきて、変化を感じる部分はありますか?

以前よりも悩むことが減ったと感じています。つい人と比べてしまうのですが、自分のことに集中するよう気持ちをコントロールする方法も少しずつわかってきました。

もともと月に数回は、所属している東京の会社へ出社していたんです。社員の方と水泳以外の話ができる時間が息抜きになっていましたが、コロナをきっかけに出社が難しくなってしまって…その頃から悩みを溜め込み、塞ぎ込んでしまったんです。日常が無くなって初めて、人と話すことの大切さを実感しました。

もともとコミュニケーションが得意ではなかったのですが、そんな自分を変えるために意識的にいろいろなコミュニケーション方法を試しながら、自分にあった発散方法を見つけていきました。

ーどういった方法を試しましたか?

感情を溜め込まないように、身近な人へ話すようにしました。それまでは自分の弱さを見せないように強がってしまい、自分の胸の内を伝えることが苦手だったんです。でも、このままだと変わらないなと。

最初は何を話せば良いかわからず、ただ弱音を吐くだけになってしまいました。それでまた悩んで、「自分で解決するのがいいんじゃないか」と殻に閉じこもってしまったときもあります。

そんなあるとき感情が爆発してしまい、何も考えずにトレーナーに泣きながら本音を全部吐き出したんです。その時に、すっと気持ちが軽くなる感覚がありました。考えすぎて自分の気持ちを正直に伝えられていなかったことが、余計に自分を苦しめていると気がつきました。

周りの方は私の性格を熟知してくれているので、悩むとすぐに「自分に集中!」と方向性を正してくれます。一人で悩みを抱え込まなくなったので、精神的に楽ですし本当に心強いです。

ー悩みを抱え込まなくなったことは、精神的な負担が減りますね。からだのコンディショニングで大切にしてることはありますか?

あまり難しく考えないということですね。これは気持ちの面でも言えることですが、どうしても年齢による固定概念に捉われて「出来ない」と自己暗示をかけてしまってることもあると思います。

年齢を重ねるほど、辛さを知っているので逃げたくなることもありますし、怪我にも気をつけないといけません。ただ、難しく考えすぎないことも大事だなと思います。

何度も挑戦することで、出来るようになることはたくさんあります。挑戦している自分のことを褒めてあげて、次のモチベーションにしています。

周りのことは気にせず、楽しみたい

ー7月に故郷の福岡で世界水泳が開催されますね。

現役の時に、地元で世界大会が開催されることなんて滅多にないこと。すごく楽しみです。福岡や日本のジュニアの選手たちにとって、良い刺激になると思っています。

ー地元開催はプレッシャーもすごく感じやすいのかなと思いますが、いかがでしょうか?

結果を出すためには、自分の居心地の良いメンタルを保つ必要があるので、難しく考えないようにしています。「メダルを獲得します!」とわかりやすい目標を掲げる方が良いのかもしれませんが、私はプレッシャーに感じてしまいます。試合を楽しんでいる時に力を発揮できるので、周りのことは気にせずに楽しんで泳ぎたいと思っています!

先日の日本選手権では久しぶりにその感覚を少し取り戻せたので、このイメージで取り組んでいけたらと思っています。

ー楽しんで試合に出場されている方が、応援している私たちも楽しくなります。今後挑戦していきたいことはありますか?

一人の女性アスリートとして、強く美しくありたいと思います。学生の頃は、大学の教えで「人間力を育て、人間性を高めながら、競技力を向上させる」という方針のもと、競技力を高めていきました。今はこれにプラスして品のある女性として、強く美しく競技を続けていきたいです。

また趣味がゲームなので、YouTubeで実況に挑戦してみたいですね。コミュニケーションも克服してきたので、勇気を出して始めたいなと思います。

ー鈴木さんの経験を通して、女性アスリートの方へメッセージをお願いします。

私は競技を続けるために地元・福岡を離れました。独り立ちできると思っていましたが、そう簡単にはいかず悩みを抱え込む癖や人とのコミュニケーションの難しさと向き合いながら競技を続けています。

特に社会人になってからは人に頼ることが難しいと感じる時期もありました。もし近くに頼れる人がいるなら、些細なことでもいいので「話すこと」をオススメします。遠くにいる友達でも良いと思います!

口に出して話をする事で、ストレスが緩和されたり悩み解決のヒントが見つかるかもしれません。コミュ二ケーション能力は自分を守るために持っておいた方が良いなと思います。
内向的な私が言えたことでは無いのですが(笑)。

すぐには出来なくても、少しずつ人に頼って、甘えられる勇気を出して、自分らしく競技生活を送ってほしいと思います。一緒に頑張りましょう!

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