「35歳でも必要としていただけるなら」吉田亜沙美が二度目の現役復帰へ挑む理由

2023年4月からアイシン・ウィングス(日本女子バスケトップリーグ Wリーグ)でプレーする、元バスケットボール女子日本代表の吉田亜沙美(よしだ・あさみ)選手。実は、かつて二度の現役引退を発表している異色の経歴の持ち主です。

一度目の引退は2019年、ENEOSサンフラワーズでのプレーを最後に引退を宣言しました。しかし、その半年後に現役復帰。2021年1月には再び引退を発表し、東京医療保健大学でアシスタントコーチを務めていました。

一時は指導者としてのセカンドキャリアを決意していた彼女が、なぜ再び選手復帰を決意したのでしょうか?復帰に至った思いや、現在の身体との向き合い方をお伺いしました。

「復帰できるとしたら、今しかない」

ー2021年1月に二度目の引退をし、35歳で再度復帰を決意されました。どういった経緯があったのでしょうか?

アイシン・ウィングスの梅嵜英毅ヘッドコーチに、声をかけていただいたことがきっかけです。2022年3月ごろから「練習に来て指導してほしい」と何度かご連絡いただいていて、11月に初めて足を運びました。

ある日の練習後にスタッフの方々とご飯を食べていると、「(アイシンに選手として)来れば?」という話が出たんです。その時の話の流れだと思っていたのですが、次の練習へ行った際、梅嵜さんから「本気だから」と。少し待っていただいて、悩み抜いた末に2023年2月ごろに現役復帰を決意しました。

ー35歳での現役復帰は、かなり悩んだ選択だったかと思います。

そもそも、私の人生設計に復帰という選択肢は全くなかったです。東京医療保健大学のコーチとしてやりがいを感じていたので、そのまま指導者の道を進もうと思っていました。

一方で2022年末のインカレ優勝を間近で見たことが、復帰への気持ちに繋がった部分もあります。指導者が変わったりプレースタイルが変わったりと不安が多い中で、「やるしかない」というチームの結束力に感動しました。自分も頑張ろう、と思わされましたね。

とはいえ3年間運動すらしていない状況だったので、復帰したとしても戦力になるのか不安でした。半年のブランクで臨んだ一度目の復帰でも、身体を戻すのに苦労したんです。今回の休養はさらに長く、自分の思うように身体が動かないだろうなと。もしかしたら復帰すらできないかもしれない、とチームにお伝えしました。

それでも「練習に来てほしい」と、温かい言葉をいただいた時に気づいたんです。この年になってもここまで必要としていただけることは本当に幸せなことだな、と。あと1〜2年経ってしまえば確実に復帰はできません。であれば、チャンスが目の前にある今こそ挑戦するべきだと思いました。やりたい気持ちがあれば、たとえ過酷な道のりでも復帰できることを示そうと決めたんです。

こうして覚悟と勇気を持つにはかなりの時間がかかりました。「もし復帰できなかったら…」と考えることも。失敗するのが怖くて、できない理由を探していたんです。でも後悔するのならやってから後悔すればいいと思い、決意が固まりました。思うようにできず歯がゆい思いをすることがあっても、それも含めての挑戦です。

どこか「吉田亜沙美っぽくて、クレイジーだな」と。やはり動いているのが自分らしいと競技を離れて感じていたので、復帰できることが嬉しかったです。Wリーグや皇后杯を見ていても、「もう一度あの舞台に立てるかもしれない」と思うとワクワクしました。

ーSNSでもファンの方々からたくさんの反響がありましたね。

受け入れていただいて、とても嬉しかったです。ネガティブな意見もありますが、「やっぱりすごいな」と思っていただけるようにプレーで証明していきたいと思っています。

勝てるチームへ成長させる

ーアイシン・ウィングスでは、どういった存在になっていきたいのでしょうか?

今回の復帰については、プレーで引っ張ることが難しい部分もあると思います。だからこそ、練習中の姿勢や取り組みからメッセージとしてみんなに伝わればいいなと。

アイシンは上位に名を連ねる強豪チームではありませんが、能力の高い選手が多いんです。ただどこかで、「トヨタや富士通など強豪にはどうせ勝てない」と思っているところがあると感じています。でも、やってみないとわかりません。自分たちならどういう勝ち方ができるのかを全員で考えて、チャレンジしていくチームへと成長したいです。一人ひとりが国内のトップレベルの選手と勝負している意識を持って、プレーする必要があると思っています。

ー時には言葉で伝えることも必要になってくると思います。引っ張る立場として、伝える時に大切にしていることを教えてください。

チームが緩くなっていたり、目標に向かう熱量がバラバラだと感じた時は、みんなを集めて話すようにしています。話し合うことで、全員で「今が大事な時期」だと再認識し、納得して取り組めるようになるんです。

もともとプレーで引っ張るタイプなので、言葉で語ることは少なかったです。でもENEOSや日本代表でキャプテンを経験して、常に自分よりチームのパフォーマンスを第一に考えるようになりました。練習や試合での雰囲気をみて、チームがまとまる機会をあえて作っていましたね。

ーキャプテンとしての重圧を感じたことはあったのでしょうか?

リーグ連覇が続いていたENEOS時代、「連覇しているチームのキャプテン」だと意識しすぎて苦しくなってしまうことがありました。勝ち続けることが使命になっていたので、優勝しても嬉しいというより、「ほっとした」という気持ちでした。そこからはとにかく目の前の試合を勝ちきって喜ぼうと決めて、背負いすぎないようにしています。

今の身体でできるベストを追求する

ー今はどのような意識で復帰に向けて取り組んでいるのでしょうか?

10月のリーグ戦が始まるまでに、筋力や体力を上げていくのが目標です。中途半端なのは嫌いなので、やるなら完璧を目指して取り組みたいと思っています。ここまでバスケをしなかったのは初めてのことなので、不安と楽しみが入り混じっています。

ートレーニングがメインなのでしょうか?

そうですね。筋力がかなり落ちているので、ベースとなる身体づくりがメインです。1日トレーニングをして、帰ってきてご飯とお風呂を済ませて寝る、その繰り返しです。一歩一歩ですが、少しずつ前に進んでいる感覚があって順調にできています。

最初は、レイアップシュートすらままならない状態だったんです。スリーポイントシュートも、跳んでいる感覚がないほど身体が重くて。「こんなにもできなくなるのか」と思いました(笑)。でも、できないことが新鮮で面白くて。新しいことを習得していく感覚が楽しいです。

ー年齢を重ねるごとに身体的な変化もあると思います。

30歳を過ぎてから、一気に疲労が抜けにくくなりました。もちろんセルフケアをしたり、トレーナーさんにも診てもらったりしていたのですが、疲れを完全に取ることが難しくなりました。以前の状態に戻ることはないので、今の身体でベストパフォーマンスをいかに発揮するかを考えています。感情に流されるともったいないので、冷静に現実と向き合うのがいいかなと。

ー最後に女子アスリートへのメッセージをお願いいたします。

後悔しないように挑戦していただきたいです。引退も選択肢のひとつだと思いますが、どこかで続けたいと思う気持ちがあるのなら、やってみたらいいと思います。そうやって踏み出すことに決めた私自身の背中を、皆さんに見せていければ嬉しいです!

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