アスリートと貧血【前編:貧血の症状と要因】(正しく知りたいシリーズ 第6弾 )


「正しい知識を身につける」ことは、日々のトレーニングの効果を出すためにとても重要なことです。今回のテーマは、アスリートやトレーニングをする人たちにも意外と多い、「貧血」について。
前編では、「貧血」の体への影響や貧血の要因となる不足栄養素について学んでいきます。


「B&」では正しい情報をベースにした「自己判断」ができるよう、管理栄養士の佐藤彩香さんによる“正しく知っておきたい”テーマをシリーズ化。7月6日に開催された第6弾「アスリートと貧血(前編)貧血の症状と要因を知る」についてのセミナーの様子をお届けします。

 

■セミナー講師

 

佐藤 彩香(さとう あやか)
管理栄養士

企業や保育園で栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験し、その後独立。健康を土台とした実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート~スポーツキッズ、ダイエット希望の方など累計5,000人を超える人々と関わる。現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら、「あなたのかかりつけ栄養士」として活動している。

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貧血とは?


皆さんは「貧血」について、どんなイメージを持っていますか?
佐藤さんの問いかけから、セミナーははじまりました。

 

「息が切れるのが早い」
「疲れやすい」
「朦朧とする、脱力感」
「顔面蒼白」
「異常に疲れる」

 

佐藤さん
さまざまなご意見をいただいていますね。みなさんが持つイメージも色々であるように、貧血には、確実にこの症状が出たら貧血であるというわかりやすいものがないのも特徴です。

 

佐藤さん
上図のチェック項目に当てはまる人の血液検査結果を見てみると、貧血気味の場合が多くあります。当てはまる項目が多い方は食事を見直すタイミングといえるかもしれません。

少し珍しい症状として、無性に氷が食べたくなる「氷食症」という症状があります。鉄分の低下が自律神経の乱れに繋がり、身体の温度調整が上手にできなくなることで口腔内の温度が上がり、それを冷やすために氷を食べたくなってしまうといわれています。

 

 

そもそも貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を指します。

 

ヘモグロビン=赤血球に存在するたんぱく質であるヘム(鉄)+グロビン(たんぱく質)

ヘモグロビンには、体内の組織へ酸素を運搬する働きがあるため、貧血状態=酸素運搬能力の低下につながります。

 

選手の栄養指導などを行う方は、ヘモグロビンの値を見ながら指導を行うとよいでしょう。

 

 

佐藤さん
上の図は貧血になる過程を表しています。
貧血(=ヘモグロビンが少ない状態)になるには過程があるので、対策をすることで事前に防ぐことができます。

不足すると貧血につながる栄養素、鉄分は体内に貯蔵することができる栄養素です。
鉄分の貯金がちゃんとできているかは血液検査項目のフェリチンの値でチェックしてみましょう。

 

貧血の種類を理解する

 

鉄不足だけが貧血ではない

 

いわゆる「貧血」は、最もよく耳にする「鉄欠乏性貧血」だけではないということを知っておきましょう。

 

 

再生不良貧血:細胞を作っていく部分の貧血

腎性貧血
:赤血球を生み出していくために必要な、エリスロポエチン不足による腎臓の貧血

巨赤芽球貧血:細胞分裂に関わる貧血、 DNAの障害やB12・葉酸が不足している。赤血球が正常な大きさではない状態

溶血性貧血:外傷などによる赤血球の破損による貧血

 

貧血にはいろんな種類があり、種類によって補いたいものやケア方法が違ってくることを覚えておいていただけるといいかなと思います。

 

女性やアスリートは貧血リスクが高い

 

女性の貧血について

佐藤さん
2006年のデータによると、“日本人の50歳未満の女性の4人に一人が貧血である”という結果が出ています。理由としては以下のようなことが考えられます。

 

・月経によって血液が減る

血液1mlあたりに鉄分は0.5mg含まれていますが、1回の月経で6.4mg〜11.2mgの鉄分が失われています。出血期間が4日以上ある場合、鉄欠乏症リスクは65%高まります。

 

佐藤さん
月経の量や期間によっても、貧血になりやすいかどうかが変わってきます。サポート側にとっては、“月経が定期的に起きているか”ということはもちろんのこと、周期や期間を把握することも重要です。

 

・痩せ型思考による栄養不足

佐藤さん
「痩せ型」の若い女性が増加しており、BMIは年々低下し、1日のエネルギー摂取量も少しずつ下がってきています。

痩せ型思考によって、エネルギーが不足が起こったり充分な栄養がとりきれず、貧血につながっているのではないかとも考察されています。

 

アスリートの貧血について

佐藤さん
アスリート、特に女性や持久性競技者は「鉄欠乏症」と診断されることは珍しくありません。
女性アスリート集団の15〜35%、また男性アスリート集団においても5〜11%の人が貧血の問題を抱えているというデータも存在します。

 

単語の説明

ヘプシジン:鉄の吸収を妨げるホルモン。運動することによって分泌される。

 

佐藤さん
鉄の吸収を妨げる「ヘプシジン」は、運動から3〜6時間の間に分泌されると言われています。分泌時間帯にかからないように、運動直後や翌朝などに鉄分を摂ると良いと思います。
また、菜食主義の場合、動物性のものを摂取しないことによって必要な栄養素が摂れていない可能性もありますので血液検査の結果などを注意してみておきましょう。

 

 

佐藤さん
貯蔵鉄(血清フェリチン)が15ng/ml未満の日本人女性(隠れ貧血の可能性がある)は全体の22.8%に及ぶなど、貧血は女性にとってかなり深刻な問題です。

しかしそのリスクはどんな世代のどんな方にも潜んでいます。未然に防げるようしっかり対策をしておきましょう。

 

貧血の身体への影響

 

貧血は具体的に身体にどのような影響をもたらすのでしょうか?

 

①骨への影響について

 

 

骨を作るために必須であるコラーゲンですが、コラーゲンを合成するために必要な酵素が鉄分です。

 

佐藤さん
骨を強くするには、シンプルに乳製品・魚・カルシウムなどを摂れば良いというイメージをお持ちの方もいると思いますが、骨の3割は有機物のコラーゲンであり、そこには鉄が深く関わっているという点も知っておいていただきたいです。

 

②神経伝達物質への影響について

 

ドーパミン、セロトニン(幸せホルモン)、ノルアドレナリンの合成にも鉄分が必要です。不足すると感情やメンタル面をコントロールしていくこの部分の合成がうまくいかなくなると言われています。

佐藤さん
鉄分が不足していると、メンタル面にも顕著に影響が出ます。気分が良い時と落ち込む時の波が大きくなり、鉄分の数値の上昇に比例して心も安定していきます。

 

③生理不順・不妊への影響について

 

生理不順や不妊への影響も懸念されます。

 

 

また、貧血の女性は、妊娠初期から中期にかけて低体重や早産のリスクが多少ですが上がりやすくなるというデータがあります。特に女性は鉄分をしっかり摂る意識を持っておきましょう。

佐藤さん
骨にもメンタルにも女性ホルモンにも関わるのが貧血。
貧血は「めまいを引き起こす」などの諸症状だけでは片付けられない問題であることがご理解いただけると思います。

 

貧血予防の鍵となる栄養素

続いて、貧血予防に関する具体的な対策や重要な栄養素について学んでいきましょう。

 

①鉄分

 

 

佐藤さん
上記の表の食材を中心に、いまであればカツオなど旬のおいしいものもたくさん取り入れてみてください。お肉は、たんぱく質のことを考えて鶏肉を選びがちですが、赤身のものも積極的に摂っていきましょう。

非ヘム鉄の摂取を毎日の習慣にできるよう、心がけていただくと良いかなと思います。柑橘類のビタミンを一緒に摂ることで、鉄の吸収率が上がります。

 

佐藤さん
アスリートをはじめ運動量が多い方は、運動によってヘプシジンの作用が出るので、一般の方より多く摂る必要があると言われています。

 

②ビタミンB12・葉酸

 


赤血球の合成に必要な栄養素で、菜食主義の方は不足する可能性が高いと言われています。胃が元気じゃないと吸収が悪くなるため、その場合にはサプリメントなどで補うこともできます。

 

③たんぱく質

必要な摂取エネルギーの13〜20%を占めます。アスリートは、一般の方より多く摂る必要があります。

 

④エネルギー

糖質不足だと、エネルギー代謝にたんぱく質が使われてしまうため、低たんぱく状態となり、ヘモグロビンの低下をもたらします。

 

⑤亜鉛

亜鉛が不足すると、赤血球の膜がもろく・壊れやすくなります。味覚の鈍化や肌荒れなどの症状が表れることも。貝類・赤身のお魚やお肉にも含まれています。

 

 

前編では、貧血の種類や要因、女性やアスリートに起きやすい理由、摂っておきたい栄養素などを学びました。

次回、8月5日(木)20:30より開催する貧血セミナー後編では、血液検査の結果を見ながら自分には何が不足しているのかなど貧血リスクをチェックし、種類別の対策をしていきます。

実践的なセミナーということで、自宅でできる血液検査キット付きのチケットや、血液検査+佐藤彩香さんによるオンラインカウンセリングを受けられるチケットも販売中です。

貧血状態・栄養状態・内臓疲労状態・筋肉疲労状態を知り、具体的な対策を学んでいきましょう。

後編セミナーのお申込みはこちらから。

 

質疑応答

 

Q.血液検査はどのくらいの頻度で受けるのがよいでしょうか?また、貧血症状がなくても、血液検査は必要でしょうか?

 

佐藤さん
赤血球は120日で生まれ変わるので、年に4回・3ヶ月に一回の検査が理想ですが、自分のストレスのない範囲内で調整いただけたらと思います。年に2回の検査を習慣にしている選手もいますね。
最低でも年に1回は、コンディション把握、病気の早期発見の観点からも検査を受けると良いでしょう。

また、貧血症状がなくても定期的に血液検査を受けるメリットは大いにあると思います。隠れ貧血の早期発見、栄養状態・内臓疲労状態・筋疲労状態の把握などによりコンディショニングのヒントを得ることができますよ。

 

Q.ヘム鉄を摂りすぎると、発がん性が高まると聞いたことがありますが、実際どうなのでしょうか?

 

佐藤さん
過剰に摂取しすぎると大腸ガンのリスクをもたらすなどのデータも出ています。ただ、「過剰」に摂るとなると、鉄剤・サプリメント・注射なども取り入れるなどして、かなりの量を蓄積していく必要があります。普通の食生活では確実に不足状態にあります。

 

Q.お米に雑穀を混ぜるか迷っています。精製されている雑穀などは、鉄などの栄養吸収によくないと聞きましたが、どうなのでしょうか?

おすすめの雑穀があればお聞きしたいです。

 

佐藤さん
玄米や、精製されていない雑穀に含まれるキチン酸は、鉄の吸収を阻害する可能性があります。ビタミンやマグネシウムが取れるメリットはありますが、鉄分の吸収面を考えるとマイナスになってしまう可能性も。

私としては、お茶碗一杯のキチン酸が悪影響を与えるリスクはそこまで高くないのではないかと思っています。玄米をお茶碗に3〜4杯食べているとなると話は別かもしれないですが、お茶碗1杯程度であればあまりデメリットにはならないのでは。それよりも、コーヒーを飲まれる方であればカフェイン(鉄の吸収を阻害する)を制限するなどの対策をしたほうが良いのではと思います。

 

Q.アイスを食べたくなるのも、氷食症の一つですか?

 

甘みが欲しくてアイスを食べたくなるなら、低血糖の可能性もあります。無味でも氷を食べたくなる、暑いから飲みたい・落ち着かないというのが氷食症です。

 

Q.小・中学生でも血液検査を行った方が良いのでしょうか?

 

佐藤さん
小・中学生は成長段階にあるので評価基準がないのですが、傾向として自分の血液検査結果を把握しておくのは良いことかなと思います。定期的に行うことで、自分の平均から上がった・下がったなど、個人データの変動を見ることができます。理想数値を探すのは難しいですが、個人の傾向を見るために活用するのは良いと思います。

 

Q.定期的に成分献血を受けることを習慣にしています。全献血は避けて成分献血にし、大会前1ヶ月間は献血しないように気をつけています。献血は貧血に影響があるでしょうか?

 

佐藤さん
献血をすることで、新しい血を生み出すサイクルも整います。何度も何度も血を抜き続けていない限りは悪影響は出ないでしょう。

 

Q.溶血亢進しやすいスポーツや、生活習慣の具体的な例があれば教えてください。

 

佐藤さん
ランなどで着地による足底への刺激があると溶血亢進しやすいです。フルマラソンやトライアスロンなど足底への刺激が多いスポーツ、また空手や柔道など裸足で行うスポーツにも多いように思います。

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