妊娠から復帰まで、トレーニングを諦めない。サッカー岩清水梓選手×モデル栗原ジャスティーンさんの産後

日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーする女子サッカーの岩清水梓選手。昨年3月に長男を出産した後に現役復帰しました。出産前から復帰を選択していたといいますが、妊娠中や産後のトレーニングには苦労したそうです。

会員数1000人を超えるフィットネスコミュニティ「Schellinfit」を運営するライフスタイルモデルの栗原ジャスティーンさんも、昨年7月に長女を出産。妊娠中や産後トレーニングを行ってきました。

そんな共通点の多いお2人に、妊娠・出産とトレーニング、復帰の経験について対談していただきました。

(聞き手:小田菜南子/文:臼井杏奈)

岩清水梓選手(左、提供:東京ヴェルディ)、栗原ジャスティーンさん(Photo:Tomoaki_yui)

左:岩清水梓(いわしみず・あずさ)選手
女子サッカー選手、ポジションはDF。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。日本女子代表(なでしこジャパン)として2012年ロンドンオリンピック、リオデジャネイロオリンピックアジア最終予選などに出場。なでしこリーグでは2018年まで13年連続でベストイレブン選出。

右:栗原ジャスティーン(くりはら・じゃすてぃーん)さん
ライフスタイルモデル。テレビや雑誌、自身で立ち上げた登録者1000人を超えるオンラインフィットネスコミュニティ「Schellin Fit」などを通じ、フィットネスカルチャーと「美しさの多様性」を広げる発信を行う。アンダーアーマーグローバルアンバサダー。現在1児のママとしても注目を集める。

 

妊娠中のトレーニングは何を?情報無く、手探り

 

岩清水さん

初めまして、今日はよろしくお願いします。私は昨年出産したんですが、産前、産後の情報が少ない中で手探りだったんです。今後増えていくママさんアスリートに知識を伝えたいと思っていたので、こういう機会は嬉しいです。

栗原さん

よろしくお願いします!私は5〜6年前からライフスタイルモデルとして活動していて、昨年出産しました。私も妊娠中はいろいろな情報を調べたのですが、妊婦でも運動する人が多い海外から情報を得たり、産婦人科医の方にもアドバイスをいただきながら、産前・産後もトレーニングを続けていました。その経験もお話できたら嬉しいです。

—妊娠がわかった後、トレーニングと競技の両立をどのようにイメージしましたか?

栗原さんの最近のトレーニング風景

岩清水さん

妊娠した時は33歳で、すでに競技引退も頭にチラついていました。なので最初は引退を考えましたが、両親に「まずは復帰してみたら?やってみてダメならダメで、すみませんでいいんじゃない?」と言われて、考えが180度変わりました。女性プレーヤーだからって妊娠出産で引退するのもどうなんだろう?と思ったことも理由のひとつ。海外では試合後のピッチで我が子と遊ぶ女子選手を見たり、なでしこジャパン(日本女子サッカー代表)でママさんプレーヤーと一緒にプレーしたので、イメージはつきやすかったです。

栗原さん

私はあらかじめ自宅でできる仕事を増やすなど、徐々に生活をシフトして妊活しました。妊婦のトレーニングは妊娠後に調べはじめましたが、本屋さんには関連したトレーニング本がなくて。妊婦向け雑誌に書いてある注意点をすべて守ると、安静にするしかなくっちゃう(笑)それで海外の情報を調べて、産婦人科医の方にも聞いていったら、ポイントを守ればトレーニングできるとわかったんです。

岩清水さん

産前は情報がなくて何をしていいか分からず、足首捻挫の時にしていたリハビリメニューを参考にして、荷重をかけないトレーニングをしていました。栗原さんはどんなトレーニングを?

栗原さん

わたしが気をつけていたのは、心拍数を150以下に抑えること、1時間以上の継続したトレーニングをしないことです。私は安定期に入ってから、腹圧を使いすぎないように腹筋は控えつつ、心拍数が上がりきらない様に調整しながらサーキットトレーニングをしました。効果が出るように心拍数は140前後でキープすることを心がけました。

岩清水さん

結構動いてる!今でも心拍数140はそこそこきついのに(笑)

栗原さん

きついですよね(笑)運動はできるけど、妊婦や子どもによって違いがあるので正解がない。なので書籍のような形で一般化しにくいのかなと思います。

 

海外と日本で差が大きい産前産後トレーニング事情

 

—日本だと妊婦のトレーニングはめずらしいですよね。周りの反応は?

栗原さん

私にとって産前トレーニングは子供を産む体力、産んだ後の体力、そして精神の安定のために絶対必要なもの!と思っていたので、批判されても止める気はありませんでした。SNSで「妊婦なのにスタイルを気にするなんて」と指摘されたこともありましたが、これはダイエットのためではなく、産後も健やかに過ごすためのものと伝えたら、その後は批判されることもなかったです。

岩清水さん

私は批判はなかったけれど、選手と同じトレーニング施設で大きなお腹で運動していたら、「大丈夫?」と心配されることがとても多かったです。日本では、そんな光景見慣れないですよね。

栗原さん

海外ではお腹の大きくなった妊婦さんもジムで運動していたのに、日本だと妊娠したら退会しなければいけないジムもあるんです。海外では、仕事でも産前はギリギリまで動いて産後は長く休むのが一般的。日本では逆が多いですよね。同じ妊娠なのにこんなに違うのかと驚きました。

—産後はどの様に過ごしていましたか?

岩清水さん

出産は通常分娩で、32時間もかかりました。それもあって恥骨が骨折手前の状態に。トレーニング以前に体を起こすこともできず、痛みが落ち着くまでは柔軟系で可動域を戻すところから始めました。またJISS(国立科学スポーツセンター)には産後復帰メニューがあったので、トレーナーがそれをもとに指示をくれました。

栗原さん

私も通常分娩で26時間かかりました。本当は水中分娩を希望していたのに長引きすぎてできなくなり、痛みがひどすぎて戻しちゃったり、メンタルの波がすごかった…。それでも翌日には元気でした。ただ1か月は安静にしていないと腹直筋の周りのお腹が開いたままになる、尿漏れにつながるというリスクを知っていたので、ひたすら我慢でしたね。

岩清水さん

私は産後2〜3か月、新生児の対応で寝られなくて。選手として睡眠をとても大事にしてきたのに寝られないし、早くトレーニングしたいのに余裕もなくて、ストレスが多かったです。産後は安静にすべきと知っていたら精神的にもよかったなと思います。

 

経験をシェアしあうことで、サポートにつなげたい

 

(提供:東京ヴェルディ)

—岩清水選手は既に試合にも出ていますが、選手復帰までの道のりは?

岩清水さん

技術的な問題はないですが、ボールの飛距離など瞬発的なパワーは不足していて、体力も前ほどは戻っていません。かといってハードなトレーニングだと、疲労で子どもの持ってくる風邪などの病気をもらっちゃう。疲れても育児があるし…追い込みきれない自分もいます。

栗原さん

そうそう、育児があるとトレーニングって別次元ですよね!私はここ2か月くらい夜泣きがあって夜中に起きるので、日中ちゃんとしたトレーニングができなくて…。

岩清水さん

私の子は幸い寝てくれるタイプですが、夜泣きがひどかったらトレーニングも試合も考えられない…。パートナーはママがいないとダメという環境を作らないようにしてくれて、一人でも面倒みてくれます。

栗原さん

私のパートナーも家にいる時は家事も育児も、ほぼ半々で手伝ってくれます。妊娠してからは料理もするように。夜泣きも4、5時までは私が面倒みているけれど、旦那には5時に朝早起きしてもらってみてもらっています。

—育児に協力は不可欠ですね

栗原さん

今運営している女性限定のフィットネスコミュニティ「Schellin Fit」は結婚しても自立して、生涯やりたいことをするサポートをしたいと思って立ち上げました。アスリートをサポートできるようなコミュニティになったら、その選手をみんなで応援する楽しさを分かち合えるし、スポンサーも募りやすくていいなと思っています。産前・産後トレーニングについても、海外のリサーチ情報を共有できると思います。

栗原さんの運営するコミュニティ「Schellin Fit」

岩清水さん

産前・産後のトレーニング情報は貴重なのですごくいいですね!最近は大滝麻未選手(ジェフユナイテッド市原・千葉)から妊娠したと相談を受けて、競技は続けた方がいいと思うし、選手の産後復帰が続くことが(業界にとって)大事だと思うと話して、自分の体験談もシェアしました。今後は産前の選手に「ジャスティーンさんのところに行きなよ」って紹介できそう。

栗原さん

ぜひぜひ!復帰できているということは産前・産後の情報が選手に伝わっているのかと思っていました。今後はこういう情報交換もしたいですね。

岩清水さん

意外と誰が情報を持っているか、何が必要かって伝わらないですよね?私たちも同じ事務所に所属しているのに今日まで知らなかった。情報交換できる場があるといいですよね〜。

復帰できるかどうかは、周りのサポート体制が大きいです。私は幸い、クラブスポンサーの保育園に産前から託児をお願いできました。その経験を生かして、試合にママサポーターを呼んだり、サポーターからスタッフまでが子どもを預けられる託児所を競技場に作る試みを企画をしたいと思っています。

日テレ・東京ヴェルディベレーザのメインユニフォームパートナーであるタスク・フォースの保育施設(提供:東京ヴェルディ)

栗原さん

素敵ですね!私のコミュニティは自分でトレーニングするだけでなく、仲間のママアスリートを応援する楽しさも共有したいなと思っているんですよね。

岩清水さん

お互いの知識や情報を発信しなければいけないし、接点も増えていくと嬉しいですね。9月からリーグ戦が始まるので、皆さんもぜひ観に来てください!

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